機動的に先進技術を利用するために必要なこと

2011年7月6日

  • ニューヨーク情報技術センター 大嶽怜
先日、ニューヨークで行われたあるレセプションでたまたま世界的な大手銀行のIT部門のエグゼクティブと話す機会があった。この銀行は金融機関としては早い段階からクラウドコンピューティングを利用するなど、先進的なITの活用で知られている。彼に先進的な取組みを成功させる秘訣を聞いてみたところ、意外に地味な答えが返ってきて驚いた。

彼の言う、先進的な技術の利用に挑戦し成功するための一番のポイントは、導入する先進的な技術に通じていることではない。むしろ既に自社のシステム環境を正しく把握していることなのだそうだ。これを聞いて数年前に日本のある企業から聞いた話を思い出した。この会社も、同じくクラウドコンピューティング関連の利用で先進的な事例をもつ企業である。担当者は一番の成功要因を、たまたま過去に自社の全システム環境の洗い出しを行っていたことだと述べていた。考えてみると、クラウドコンピューティングの活用に成功したという企業からは似たような話をよく聞く。これらの企業は総じて、未知の技術を利用するリスクを、それを許容できる業務やシステムに当てはめることでコントロールし、新しい挑戦へのハードルを下げている。

この話はクラウドコンピューティングに限ったことではない。先ほどのエグゼクティブの話に戻ると、自社の環境を把握することは、先進的なITの利用を試みる場合に常に必要なことなのだそうだ。しかし、その重要性をしっかりと認識し、労力を掛けて実行し続けることはかなり困難であるとも言う。ここ数年の市場環境では、大きな労力とコストを掛けて、直接利益に結びつかない自社環境の調査を行うのは簡単ではない。先ほどあげた日本企業の話でも、別の機会にたまたまシステムの調査をしていたに過ぎない。この大手銀行でも、この作業に非常に多くの労力を費やしており、残念ながら近道はないのだそうだ。彼は、自社の環境を把握する重要性を理解し、行動し続けることが出来る人間こそが有能なエグゼクティブだとも言っている。

日本では、震災によって明らかになった複雑なサプライチェーンの問題などから、自社の環境を把握することが事業継続の重要な課題として取り上げられるようになった。メディアでは、これを日本企業の新たな負担としてネガティブに扱うことも多い。今回取り上げたITの話が、単純に全ての業種や企業には当てはまらないかも知れないが、この課題への取組みにはポジティブな面も少なくないように思う。この機に自社環境の把握に取り組むことが、今後日本企業が新しいことに挑戦し、機動的に活躍していく起点となることを期待したい。

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