震災復興におけるリバースモーゲージの活用

RSS

2011年06月09日

東日本大震災では、震動や火災、津波によって多くの住宅が損壊した。再建には大きな経済的負担が避けられないが、高齢者は融資を受けるのも難しいだろう。こうした場合の政策対応として、リバースモーゲージが注目されることがたびたびあった。

リバースモーゲージとは、土地建物を担保にして金融機関等から年金のように分割で借入金を受け取るものだ。時間が経過するとともに債務が増大し、死亡時に不動産価値と債務を清算する。通常の住宅ローン(モーゲージ)では時間経過により債務が返済されていくが、この制度では逆に増えていくのでリバースモーゲージと呼ばれる。災害時の措置とは別に、各地の福祉公社や地方自治体が実施しているし、住宅金融支援機構のリフォーム融資における「高齢者向け返済特例制度」や社会福祉協議会の「不動産担保型生活資金」も一種のリバースモーゲージだ。民間金融機関や住宅建築会社が提供するリーバースモゲージも見られる。平常時のリバースモーゲージは、社会保障類似の機能を自己所有の不動産の価値で実現するものと考えればいいだろう。

災害時の例としては、阪神淡路大震災後に神戸市で「不動産処分型特別融資制度」が創設された。中越沖地震後に新潟県で実施された「緊急不動産活用型融資制度」(※1) も同様のものである。これらは、高齢者に対する融資制度として不動産資産を担保に借入れをし、死亡時に担保不動産を処分して借入金の一括償還を行うというものだ。しかし、制度の利用はあまり進まなかったようである。神戸市では十件程度であるし、新潟県でも十数件に留まっている。利用が進まない原因として神戸市の場合には、申込みに当たって推定相続人らによる債務保証が得にくいこと、自己の所有する土地及び建物を処分することへの抵抗感が強いこと等が指摘されている(※2)

今回の震災復興にあたって地域の再建を進めるには、これまでリバースモーゲージが十分に活用されなかった原因を改善し、実情に即した制度を構築することが必要だ。まず、人的保証は、不動産に担保設定しているのであるから不要とするべきであろう。また、災害により不動産の価値が失われておりこれを担保とした融資が成立し得るのか、仮に融資が成立したとしても土地を失う事態つまり処分清算を避ける方法については検討を要する。担保は、土地と再建建物に設定し、融資金の使途は建物の再建だけでなく、担保余力があれば生活費等への充当も認めるべきだ。津波被災地域では、防災の観点から従来型の木造住宅の再建ではなくコンクリート中層建築によるべきであるように思えるが、世帯単位では難しいということも問題となる。

こうした課題を克服するには、被災地区をブロック化し集合住宅を構築して区分所有権を担保としたリバースモーゲージを活用することが考えられる。これにより土地の高度利用が進めば担保価値は増大するので、居住を続けられる可能性も出てくる。また、交通・生活インフラなど地域復興が進めば土地の価値はさらに上がるのであるから、担保評価については、被災地の現況ではなく復興後の状況を基準とするべきだ。評価額によっては、第一順位担保に限らなくとも良くなるはずだ。担保評価すなわち不動産の価値を上げることが融資の回収を容易にするのであるから、リバースモーゲージ制度は、総合的な復興計画の一部と位置づけられよう。

とはいえ、簡単に実現できるものではないことも確かだ。まず、わが国におけるリバースモーゲージは、集合住宅を対象にすることは稀であるという事実がある。これは担保資産の評価とも関わるが、集合住宅の価値評価を根本から見直す必要があるかもしれない。また、権利者に相続が有ったり行方不明の場合の権利者の確定の問題も生じる。土地や残存建物に先順位担保権が設定されている場合の利害調整も解決していかなければならない。また全体的な復興計画との関係を具体的に考えれば、道路等の新設や廃止に伴う公用負担をどのように配分するか、検討を要しよう。

住宅密集地域の区画整理にあたりリバースモーゲージの利用が検討されているし、老朽マンションの立替では、実際に使われることもある。被災者の生活拠点を回復するために、これまでの知見を活かした迅速な対応が期待されるところだ。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕