大震災からの経済復興と電力供給制約

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2011年04月13日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
今後数ヶ月たって、東日本大震災の復興事業が本格化してくると、需要サイドでは復興のための投資需要が増加して、震災の影響で下押しされた景気に期待がかかる。阪神淡路大震災の時も当初は景気の沈滞が現れたものの、3四半期後には公共投資の増加が景気全体を押し上げていくパターンがみられた。今回の大震災で失われた資本ストックは20兆円以上にのぼると見積もられる。また経済復興によって未来への希望を持てる新しい地域の姿を構築していこうということであれば、工夫はすべきだが、それ以上の投資需要が必要になってくるだろう。復興事業の本格化は日本経済全体にとってプラスとなり、また復興事業の需要そのものから被災地の経済活動の復活と再生に寄与すると考えられる。それを可能にする金融的な準備、特に復興を担うべき地元企業へのエクイティを中心とする投資資金の確保は重要である。

しかし、現在、日本経済の成長を制約する要因は需要サイドよりも供給サイドにある。とくに最も大きな制約要因として、電力の供給問題に注目せざるをえない。休止していた火力発電所の再開など供給努力はなされつつあるが、それでもこれまでの夏冬の電力需要ピークに対応できる発電能力を確保するには数年を必要とする可能性が高い。

では復興事業自体はその制約の中で順調に行えるだろうか。復興事業の大きな部分は当初は建設投資になると思われる。産業連関表(2008年延長表、経済産業省)で生産額に対して電力の中間投入が何%になっているのかをみると、「建築及び補修」0.24%、「公共事業」0.47%、「その他の土木建設」0.63%と直接的な電力消費はそれほど大きくない。産業全体では1.1%であるからその半分程度ということになる。中間需要の波及経路をすべて織り込んだ生産波及係数でみても、「建築及び補修」1.77%、「公共事業」2.02%、「その他の土木建設」2.20%であるから、これも産業全体の2.27%と比較して大きいとはいえない。10兆円の建設投資が誘発する電力需要は金額にして直接的には500億円、間接経路を含めて2000億円ほどである。つまり、復興事業の大部分を占める建設投資は電力多消費型産業とはいえないので、それ自体が電力供給に制約されて行いにくいということにはならないだろうと推察される。

とはいえ、電力供給問題は日本経済全体の成長制約要因ではある。民間も、これを克服していく知恵を振り絞っていかなえればならないし、それを誘導するにはピーク時電力料金を大幅に引き上げるということも自然な政策であると思われる。特に家庭やオフィスでの冷暖房需要をピーク時にいかに抑えるかという工夫がなされるだけで大きな違いがでてくる。かといって消費活動をやめてしまうとそれ自体が日本経済にはマイナスだ。夏に向けて「クールな個人消費」「クールな企業活動」のありかたの開発に期待したい。

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