コンティンジェント・キャピタルの規制動向

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2011年04月06日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
ここ数年、「コンティンジェント・キャピタル」という用語がニュースで散見される。コンティンジェント・キャピタルとは、ひらたく言うと、「条件付資本」である。具体的には、ある一定の条件(トリガー)が充足された場合に、発行体の資本に転換されるか、もしくはその元本を削減されるという条項を含む証券をいう。

コンティンジェント・キャピタルは、2008年の金融危機以降の金融規制強化のコンテクストで取り上げられ、2009年11月3日のロイズ・バンキング・グループによるココ・ボンド(CoCos:コンティンジェント・キャピタルの一種で、トリガー充足により資本に転換される債券商品をいう)の発行で注目を集めた。直近では、2011年2月14日・17日のクレディ・スイスによるココ・ボンドの発行が大きく取り上げられた。

コンティンジェント・キャピタルは、その損失吸収力をもって、金融危機の再発防止に対する解決策の一つとなることが期待されている。金融安定理事会(FSB)は、システム上重要な金融機関(SIFIs)、当初は特にG-SIFIs(グローバルなSIFIs)については、新しい銀行の自己資本規制であるバーゼルⅢ(2013年1月1日より段階的に実施)で合意された最低水準よりも高い損失吸収力を備えるべき旨提言しており、その方法の一つとしてコンティンジェント・キャピタルの導入を挙げている。そして、バーゼル銀行監督委員会は、バーゼルⅢの追加規制として、国際的に活動する銀行が発行するノンコアTier1とTier2資本商品を対象として、コンティンジェント・キャピタル条項を発行条件に含むことをノンコアTier1とTier2への算入要件とするルールを公表している。

このように、昨今の金融規制強化を背景に徐々に存在感を示し始めているコンティンジェント・キャピタルではあるが、発行事例は未だ少なく、マーケットが発達しているとはいえない(※1)。しかし、国際的に活動する銀行についてはバーゼルⅢの追加規制によりコンティンジェント・キャピタルの発行が求められる以上、マーケットを発達させていかなければならない。そのためには、金融システムの安定を図る規制当局、コストの削減を図る発行体、そして投資家の間の利害調整を可能とするコンティンジェント・キャピタルのストラクチャリングが不可欠となる。

ストラクチャリングのキーの一つは、トリガー事由であろう。トリガー事由については、規制当局と発行体の立場からすれば、その柔軟性から、規制当局の裁量であることが望ましい(※2)。しかし、投資家にとっては、その客観性から、資本比率をベースとしたトリガー事由が望ましい(※3)

トリガー事由以外にも、トリガー発動のタイミング(ゴーイング・コンサーンとゴーン・コンサーン)、損失吸収の方法(普通株式への転換と元本削減)、元本削減を認める場合の元本回復の有無等、利害調整されるべき問題がある。コンティンジェント・キャピタルをめぐる規制動向と今後のメガバンクによる発行事例には、大きな注目が集まるであろう。

(※1)これまでの主な発行事例としては、先述のロイズ・バンキング・グループ(2009年11月3日)に加えて、ラボバンク(2010年3月12日、2011年1月17日)、ウニクレディト(2010年7月14日)、インテサ・サンパオロ(2010年9月23日)、クレディ・スイス(2011年2月14日、2011年2月17日)が挙げられる。ロイズとクレディ・スイスは普通株式への転換を、それ以外の銀行は元本削減を損失吸収の方法としている。
(※2)バーゼルⅢの追加規制は、トリガー事由を規制当局の判断に委ねている。
(※3)これまでの発行事例では、すべての銀行が一定の資本比率を下回ることをトリガー事由としている。もっとも、バーゼルⅢの追加規制公表後に発行したクレディ・スイスについては、合わせて規制当局の裁量をもトリガー事由としている。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光