今こそ積極的なエコ政策を

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2011年04月04日

3月11日の東北地方太平洋沖地震は、津波や原発事故も重なり、広域かつ甚大な被害をもたらした。震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された人々が一日も早く安定した生活に戻れるように復興支援を進めなければならない。

そして現在、日本経済は財政悪化と景気悪化という2つの問題に直面しつつある。震災復興に伴う財政悪化はやむを得ないが、すでに震災前から歳入の半分以上を国債発行に頼っていたため、財政リスクが以前より高まっている。また、震災によるマインドの悪化や電力不足などの影響を受けて家計や企業の経済活動が縮小しており、そのような状況が長引けば、景気悪化で家計所得や雇用機会が減少し、ひいては被災者の生活の自立を遅らせかねない。また企業収益の減少で税収が減り、財政収支がさらに悪化するかもしれない。

こうした問題に対処する方法の1つとして、即効性があり、経済成長率を高め、かつ電力などのエネルギー問題を改善させる政策を行うことが考えられる。具体的には、政府が積極的なエコ政策を行うことが挙げられる。

2010年度まで行われていた「家電エコポイント制度」や「エコカー補助金制度」が、景気の浮揚に奏功したことは記憶に新しい。同時に、これらの制度は予算制約によって実施途中で変更や中止を余儀なくされ、需要の駆け込みや反動減といった混乱をもたらした。ここで提案したいのは、上記の制度を潤沢な予算のもとで大規模に再開するとともに、住宅用太陽光発電システムも対象に加えるというものである。政策手段としては、補助金やエコポイント、税制優遇など様々考えられる。

住宅用太陽光発電システムの普及率はここ数年で上昇しているが、依然として低い。総務省「住宅土地統計調査」によれば、2008年10月1日における太陽光発電システムの普及率は1.1%(52万戸)で、これに2009年1月~2011年3月の太陽光発電システム補助金申込受付件数を加えても2%程度(88万戸)である。家庭の電力需要は日本全体の30.7%(2009年度、資源エネルギー庁)を占めており、現下の電力不足を考えれば、政府が積極的に普及率を押し上げる意義は十分にあるだろう。2011年度の補助金額や余剰電力買取単価は、システム導入コストの低下などを背景に引き下げられることになったが、今回の電力供給不足をきっかけに、政府は太陽光発電システムの普及をさらに後押しさせるためにも、システム設置への補助をこれまでより厚くすべきであろう。

積極的なエコ政策を提案している理由は、過去のエコ政策が奏功した実績や普及率の低さのほかにもう1つある。それは、日本人は他国より、節約によるメリットが環境保全の動機付けとなる傾向が高く、エコ政策が消費活動を刺激しやすい可能性があるからだ。内閣府「平成22年度 経済財政白書」では、日本人とユーロ圏の人々の環境に対する意識を比較している(図)。環境問題の解決に役立つ行動を取っている人に対して、その理由をいくつかの項目を挙げて尋ねると、日本はユーロ圏よりも「お金を節約できるから」と答えた人の割合が高かった。現在では電力不足だけでなく、原油などの資源価格も高止まりしており、人々の省エネに対する意識が以前よりも高まっていると考えられることから、家計の省エネ投資を促すエコ政策は相対的にも奏功しやすいと思われる。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司