為替問題を巡る、米国の思惑

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2011年03月30日

2月のガイトナー米財務長官による訪伯に続き、3月19日にはオバマ大統領がブラジルを訪れた。11年1月1日にルセフ新大統領が誕生してから約3ヶ月後の訪問となるが、これはブラジルの地政学的な重要性が高まったことを意味するだろう。

両大統領の間では、通商、外交、海底油田など包括的な話し合いがもたれたようである。しかし今回特に注目されたのは、ガイトナー米財務長官との間で議論されたという為替問題であろう。ガイトナー米財務長官は、資本流入の歪みの背景には、通貨を過小評価している国があると指摘した。名指しこそ避けてはいるが、これは中国を暗に意味していよう。財務長官の発言はつまり、為替相場を管理することで自国通貨を割安に維持している国があることが、レアル高圧力を促進しているということである。この発言の背景には、米国の追加的な量的緩和(QE2)がレアル高圧力を高めたという批判をかわす目的と、中国の為替問題に米伯で連携して対応していく認識の一致を求めた米国側の思惑が伺える。

レアル高圧力は、ブラジルが頭を抱える問題である。現にレアルは、08年末から09年10月にかけて約20%増価した。金融危機からの回復と、急速な景況感改善、高金利などが背景にある。そのためブラジルは、リーマンショック後一時的に免除されていた金融取引税(IOF)を09年10月に復活させるに至った。10年10月には債券に対するIOF税率を更に引き上げるなど、断固とした姿勢を見せている。このレアル高圧力に対しブラジルは、同国への膨大な資本流入は先進国の金融緩和に起因するとし、10年11月にQE2を発表した米国を強く批判した。また、新興国が拡大した流動性の受け皿となったことで、各国が自国通貨抑制を目的に相次いで資本規制に乗り出したことを、「通貨安戦争」と呼び反発していた。今回のオバマ大統領、ガイトナー財務長官の訪伯は、レアル高圧力が中国の為替相場管理に一部起因する点を持ちかけることで米国への批判をかわし、為替の歪み・不均衡問題を巡る先進国VS新興国という対立の構図を崩すことに目的があったのだろう。

また、ブラジルにとっても中国の為替問題は看過できない課題であることは事実である。中国はブラジルの主要貿易相手国である。対中輸入は15.8%と最大で、対中輸出は10.4%と米国に次いで第2位となっている。人民元に対するレアル高は、安価な輸入品の流入を促し国内製造業を圧迫する可能性もある。つまり、ブラジルにとっても中国の為替水準は看過できない問題ではある。

しかし実際、ブラジルが抱いている中国の為替水準に対する問題意識は、米国と比較すると低いのが事実である。両国の間には、温度差がある。またレアル高圧力が先進国側の流動性供給拡大に起因すると認識している印象は簡単には拭えない。今回の米国によるブラジルへの働きかけの裏には、米国側の思惑が垣間見られるが、これを受けてブラジルが大々的な方向転換を図るかという議論は、また別の話となるだろう。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲