若年層に負担の掛かる日本の雇用システム

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2010年12月14日

高齢化とは、引退世代である高齢者だけの問題ではない。高齢化が進む過程では、現役世代全体の高齢化も進む。日本の雇用システムは様々な要因で変革期を迎えているが、年功序列賃金や終身雇用などの仕組みは現役世代の高齢化によっても歪みをきたしており、その修正が求められている。

例えば、今はかつてのような将来賃金の上昇は望めなくなっている。図は過去30年程度の大卒・大学院卒の男性一般労働者の賃金を年齢階層別に描き、2009年の物価で比較可能なように調整したものだが、賃金カーブが徐々にフラット化しているのが分かる。特に、足元で働き盛りの30代の賃金水準が低下している(図の点線の楕円で囲まれた部分)。各年齢階層別における賃金の時系列推移を見ると、20代と40代前半の賃金はこの15年ほどで大きな変化は見られないが、30代の賃金が徐々に引き下げられており、特に30代後半については直近のわずか3年間で50万円も低下している。

そして、企業に占める高年層労働者の割合が増える一方で、若年層の割合が急激に低下している。30年程前に全雇用者の約半分を占めていた20代後半から30代前半の労働者数の割合は、直近の2009年にはおよそ3割まで低下、一方で50代以上の高年層労働者は同時点で6%から20%近くにまで上昇している(厚生労働省「賃金構造基本調査」より)。

これまでの日本の雇用システムは豊富な若年労働者の存在を前提にしたものであった。しかし、現役世代の人口構成が高齢化すると、高年層に支払う賃金総額が増え、従来型の雇用システムは維持できなくなってしまう。一方で、日本には厳しい解雇規制が存在しており、既に雇われた労働者の解雇はかなり制限されている。その結果、人件費を削減しやすい雇用の入り口で新卒採用人数を絞るか、より賃金が安くて解雇しやすい非正規労働者の雇用で対処するか、または若年層の賃金を抑制せざるを得ない。雇用システムの歪みが若年労働者にしわ寄せされている。

従来は現場に根ざした特殊な知識や経験がより必要とされ、高年層労働者は重要な存在であったが、今では経済環境が変化して創造性が求められるようになると、新しい発想が成長の源泉となり、むしろ若年労働者の存在価値は高まる。しかし、現状の雇用システムではこうした若年労働者を排除するような形になってしまっている。

若年層に過度の負担が掛かる現状を是正するには、少子高齢社会に合わせた新しい雇用システムの構築が求められる。そのためには、生産性に見合った賃金を支払うことで人口構成の高齢化による歪みをなくし、雇用システムを維持可能なものにしていく必要がある。

足元で引下げられる30代の賃金

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄