新たな時代を迎えた、日本企業の株式持ち合い

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2010年11月10日

  • 伊藤 正晴
日本の株式市場を特徴付けてきた株式持ち合いは、戦後間もなくからいわゆるバブル崩壊前まで、主に銀行が多くの事業会社との間で株式を持ち合うという形で強化、維持が続いてきた。その後、1990年代のバブル崩壊からの株式市場下落で、特に膨大な株式を保有している銀行の財務が多大な影響を受け、株式持ち合いの解消が進展した。ところが、2005年頃からは株式持ち合いの解消が停滞、むしろ強化の動きがみられるようになった。買収防衛や事業提携の強化などを目的に、特に事業会社同士による株式持ち合いの強化が進んだのである。

さて、平成21年度株式分布状況調査で直近の株式保有状況をみると、2009年度の事業法人等と都銀・地銀等の株式保有比率はともに、3年ぶりに低下した。また、投資部門別売買状況でも09年度は事業法人が5,224億円、都銀・地銀等が4,193億円の売り越しとなっており、再び株式持ち合いの解消が進んだことが推察される。その直接的要因は、株式市場の大幅な上昇があげられるが、その背景には有価証券報告書における「株式の保有状況」の開示義務と、国際会計基準(IFRS)の導入議論があると考えられる。

「株式の保有状況」の開示は持ち合い株式など純投資以外の目的で保有する株式について、保有銘柄や株式数、保有目的などを開示するものである。特に、保有目的の開示は個々の保有株に対してその必要性を検討し、保有が必要な株式にはその必要性や保有することによる効果の説明が求められよう。また、必ずしも必要ではない株式については、投資家や株主などから、その株式の売却を求められる可能性がある。

IFRSでは、持ち合い株式などについての時価変動を含めた「包括利益」が表示される。現行の会計基準でも同様の指標を算出することは可能ではあるが、IFRSの導入は保有株式の時価変動を考慮した利益指標が市場参加者の共通認識となり、企業の株価決定に保有株の株価動向が与える影響が大きくなることが予想される。

持ち合い株式に関する情報開示や、会計基準の変更は株式持ち合いを禁止するものではない。しかし、これまでにも増して、株式持ち合いに関する株主や投資家の目は厳しくなる可能性が高く、持ち合いの維持や強化にはこれまで以上に説明責任が求められることになろう。株式持ち合いは、新たな時代を迎えたといえる。

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