中国の不動産投資・投機抑制策の本気度

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2010年11月02日

中国では住宅価格の抑制策が4月以降、強化されている。骨子は、投資・投機の抑制と実需向け住宅建設の促進であり、前者では、価格上昇が著しい地域での3軒目以降の住宅購入に対するローン提供の暫定的な禁止、後者では、保障性住宅(日本の公団住宅のイメージ)や90m2以下の住宅向けに住宅用地の7割を充当することなどが打ち出された。政策は一定の効果を上げていたが、「金九銀十」と呼ばれる不動産販売活況期である9月の不動産価格は前月比+0.5%(8月は0.0%)と上昇に転じ、1~9月の不動産販売金額も前年累計比15.9%増(1~8月は同12.6%増)と増加ピッチが再加速してしまった。こうしたなか、9月29日には抑制策が若干強化され、3軒目以上の住宅ローン提供は全国一律で禁止されるようになっている。

しかし、10月中旬の中国現地取材では、9月の住宅ローン規制強化の追加的な効果は小さいとみる向きが多かった。これは、富裕層は現金で住宅を購入するため、住宅ローン規制をいくら強化しても効果が及ばないからである。このため、10月以降は住宅購入自体に制限を設ける都市が多くなっている。例えば、北京市では住宅を既に保有しているか否かを問わず、今後新たに購入可能な軒数を1軒に制限しており、投資・投機需要は抑制されよう。不動産価格の上昇ピッチは再び減速していく公算が大きい。

こうした政策は何時まで続くのであろうか?海南省海口市では、住宅購入制限の実施期限を2010年年末までとしている。他の都市では期限を明記していないが、海口市の例からは、今後数ヵ月~半年程度の暫定措置と想定することが可能であろう。中国政府は、一般市民の手が届く程度まで高級物件の価格を下げることなど全く考えていない。大和総研が一連の不動産投資・投機抑制策が来年の春先までには緩んでくると予想する所以である。

中国の不動産市場が大崩れしない(させられない)のは、(1)銀行は頭金を平均3割入れさせ、残りの7割に担保設定をして住宅ローン貸出を行っており、価格が3割以上下落すれば不良債権リスクが大きく高まる、(2)大手銀行には国が7~8割を出資しており、不良債権増加で困るのは結局のところ国となる、(3)地方政府は、土地売却益だけでなく、地方政府系デベロッパーから利益の分配を受けており、不動産価格の下落は財政収入に直接的な悪影響を与える、といった理由のためである。実需の面でも、(1)95年以降、農村からの移住を中心に、都市人口が毎年1500万人~2000万人(世帯数では500万世帯以上)増加しているが、当初は借家住まいを余儀なくされる人たちが10年~15年もすれば持ち家を購入する実需層に育ってくる、(2)中国で住宅が商品化されたのは98年以降であり、未だに狭くて老朽化した国有企業時代の宿舎に住み続けている人も多い、ことから、居住目的の住宅購入意欲は旺盛である。これが、当局が実需向け物件の供給増加を促進する背景でもある。少なくとも旺盛な実需が続く限りは、短期的な調整はあっても住宅市場が大崩れするリスクは小さい。現在の中国の状況は日本の1970年代初めによく似ている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登