企業が認識すべき「データ改ざん」の本質

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2010年10月26日

  • 栗田 学
電子ファイルの更新日時を改ざんしたとされる事件が世間の注目を集めている。真相の解明は時を待つほかないが、この事件は企業が認識すべき重要な問題を孕んでいる。

企業は国内海外を問わず訴訟に巻き込まれるリスクを持っている。リスクが現実のものとなった場合、弁護士をはじめとする関係者に自らの主張が真実であると証明できる情報を提出し、裁判に臨む。その巧拙は訴訟の行方や費用を大きく左右し、したがって企業はいつ訴訟に巻き込まれても慌てないよう、備えておかなければならない。

企業が持つ情報の多くは電子媒体に記録されている。電子データには次のような特徴があり、それぞれに厄介な問題の原因となっている。

1)量が膨大
企業が電子的に保有している文書は膨大であり、訴訟ではこの膨大な電子データの中から必要な情報を抽出する作業が発生する。無関係な文書や同一内容の文書を除外しないと、余計な作業が増え時間とコストが膨らんでしまう。
2)証拠性の維持が困難
電子データはサーバーに保存されることが多く、設定次第で多くの社員が閲覧したり更新したりできる。アクセスや更新の記録が変われば、自らの主張を証明するために必要な「証拠性」が失われる可能性がある。冒頭の例では、更新日時が書き換えられた時点でこの文書の証拠性は失われたのである。企業が当事者になった場合も同様で、故意であろうとなかろうとアクセスや更新によるデータの証拠性の喪失に細心の注意を払う必要がある。
3)保存形式が多様
多様なソフトを使っていれば、保有するファイル形式もまた多様になる。一方、情報開示には開示先が容易に閲覧できる利便性が求められ、そのためにはファイル形式が統一されていることが望ましい。したがってファイル形式を適切に変換することが情報開示にはもちろん、開示すべき情報の検索を効率的に行う上でも重要となる。

中でも最大の問題はいかに証拠性を維持するかであり、そのためには電子データのコピーを迅速に確保することが基本である。ただ、そう簡単ではない。まず調査対象(原本)となるディスクを外し、専用の複製作成装置やソフトを用いて物理的にもう1つの原本を作成し、さらにビット単位で誤りがないかをハッシュ値(※1)を用いて確認するといったプロセスを辿る。準備に要する一連の作業を自ら行うには限界があり、専門事業者の力を借りることも多い。しかしながら、切迫した状況の中、事業者とタイアップして効率よく作業を進めるには、証拠性の維持とはどのような要件を満たすことで達成されるのか、そのために何をどのような順序で行うべきなのかを理解しておくことが欠かせない。

世界各国の法環境の下、電子データを自らの主張の証明に使う場面は今後も増加しよう。電子データの証拠性にスポットが当たった冒頭の事件を、企業が訴訟を乗り切っていく強かさを身に付ける契機としたい。

(※1)ハッシュ値:データが改ざんされていないことを確認する技術。この場合には、原本、複製物の双方のハッシュ値が一致することが確認できれば原本どおりコピーされた証となる。

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