金融危機後のロシア

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2010年07月12日

6月22日からの4日間、ロシアの首都モスクワへ出張し、現地のエコノミストにインタビューを行った。統計上ロシア経済は回復の兆しを見せており、10年第1四半期のGDP成長率は、08年以来はじめてプラス転換し、前年比+2.9%となった。今回の出張の目的は、金融危機後のロシアがどのような回復を遂げているのかを現地で調査することであった。

好調な鉱工業生産、GDP成長率のプラス転換と、統計上ポジティブな兆しはあるものの、現地エコノミストはロシア経済に対して依然慎重な見方を崩していなかった。その理由として何点か挙げられるが、ここでは政府の年金政策について取り上げたい。

ロシアの財政赤字は、政府の景気刺激策による財政出動に起因するのではなく、年金基金の赤字が大きく影響している。ロシア政府は、危機以前から年金支給にインデクセーション制を導入しているが、年金基金の予算不足時にも、支給額の増額に踏み切った経緯がある。その結果、基金の赤字補填に更なる支出が必要となり、財政赤字が拡大した。

この年金支給増額が国内消費の回復に寄与しているとの見方もあるのは事実である。しかしこのような消費の回復は政策主導であるため、「質」が悪いという。現地での消費動向を観察するため、出張中モスクワ市内にあるデパート「グム」と「ツム」へ行った。高級デパートという業態上の理由もあるかもしれないが、賑わいには欠けていた。さらにレストランにいる人々を見ても、食事をしている人は少なく、コーヒーや紅茶のみの人が多い。対照的に賑わいを見せていたのがマクドナルドであった。174ルーブル(約500円)のバリューセットが物価の高いモスクワではかなりお手頃であるのは間違いない。クレムリン前のマクドナルドは常に人であふれていた。また国内消費の弱さから、企業は「歴史的に例外に」マージンを減らすことで価格を落とし、マーケットシェアを他社に奪われないようにしているという。その結果として、インフレ率の低下が生じているとのこと。

以上のような懸念はあるが、豊富な外貨準備を有している点や、原油価格の回復によって財政赤字の管理ができる点など、他国と比較してダウンサイドリスクが限られている、と述べられていたことも最後に述べておきたい。今回の出張は比較的にみて、国内エコノミストの見方が国際金融機関の予想よりも悲観的であるという、意外な結果となった。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲