一斉提出では終わらない「独立役員」問題

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2010年05月26日

  • 藤島 裕三
各証券取引所が上場企業に3月末までの提出を求めた「独立役員届出書」の集計結果が、東証HPで公表されている(下記※、東証上場企業の分)。今後は株主総会における役員選任など、独立役員に異動が生じる場合は適宜、同届出書を再提出する必要がある。

※ 東証「独立役員届出書の集計結果について」

独立役員とは「一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役」(東証・有価証券上場規程第436条の2第1項)のことで、会社法の定める「社外性」よりも厳しい「独立性」を求められる。東証は昨年12月に上場規程を改定しており、全ての上場会社に1 名以上の独立役員を確保することを義務付けた。

今回の一斉提出に際して「独立役員未確保」と届け出た東証上場企業は、全体の10.2%に達した(上記の東証集計、以下同)。同制度が社外取締役・社外監査役に会社法より厳しい条件を求める以上、適格者がいない企業が相当数に達したことは必然ではある。

未確保の企業が例えば3月決算なら、来年6月の株主総会後に独立役員である社外取締役か社外監査役がいない場合、改善報告書の提出など実効性確保の措置が適用される。間に合わせるためには、今年の総会終了後にも人選など議論を始める必要があろう。

また今総会に際して、機関投資家の一部では、独立役員として指定されているか否かで、社外取締役・社外監査役の選任議案を判断することを検討しているという。さらには指定の有無に止まらず、届出書の記載内容までチェックする投資家もいる模様である。

委員会設置会社は社外取締役2名、監査役設置会社は社外監査役2名を、少なくとも設置する義務がある。一方で独立役員が1名だけの企業は全体の47.2%ある。こうした企業では独立役員でない社外取締役・社外監査役の選任に反対票が集まるかもしれない。

独立役員であっても、当該企業の大株主やメインバンク出身者など、開示加重要件に該当する場合は、投資家によっては独立性が疑わしいとされ得る。このような独立役員も独立役員全体の6.3%おり、やはり選任議案には否定的な判断をされる恐れがあろう。

先々を見越した場合、金融庁が社外取締役を前提とするガバナンスを推奨している、民主党が公開会社法で社外取締役の義務付けを検討している、などから独立役員の資格が加重される可能性も小さくない。独立役員を巡る議論は始まったばかりなのである。

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