揺れる国際会計基準(IFRS)~日本の対応は?

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2009年12月16日

  • 深澤 寛晴
コンバージェンスに加えてアダプションが視野に入る中、国際会計基準(正式には国際財務報告基準、IFRS)に対する注目度が高まっている。前者(コンバージェンス)は日本基準をIFRSに近づけるものであり、2011年をターゲットに段階的に作業が進められている。後者(アダプション)は日本基準の代わりにIFRSを採用するものだが、その時期は米国の動向次第、というのが現状だ(※1)

一方、海外に眼を向けると、IFRSを巡る環境には変化が生じている。G20からの指示を受け、2009年12月末の決算期に間に合うよう開発された新たな金融商品会計(IFRS9)に関し、欧州(正確にはEU)は承認手続きを先送りしている。また、米国は金融商品会計に関してIFRS9と異なる方向性を示すなど、足並みの乱れが顕著だ。

従前より、IFRSの開発には欧州の方が積極的だった。欧州域内でバラバラだった会計基準を統一化する、という目標に加え、世界最大の証券市場である米国において欧州各国の基準が実質的に認められず、欧州企業が米国市場で資金調達する際に米国基準(US GAAP)に対する調整表(※2)の作成が義務付けられていたことが背景にある。2005年の欧州域内におけるIFRS全面適用、及び2007年のIFRSを採用する米国外企業に対する調整表作成の義務免除を受け、欧州は当初の目的を達成したと考えられる。

一方の米国に関してだが、IFRSとのコンバージェンスを打ち出したノーウォーク合意当時(2002年)の状況を振り返ってみよう。ITバブル崩壊後、エンロンやワールドコムに代表される会計不正が次々と明らかになった時期だ。従前より、証券取引委員会(SEC)及び財務会計基準審議会(FASB)は基準策定を巡って様々な圧力に晒されていた。90年代、ストック・オプションに関し、政治的圧力に屈する形で実質的に費用計上を免れる会計処理を容認したのは好例だ。両者は上記のスキャンダルを機に反撃を試み、外圧としてIFRSを用いるためコンバージェンスに踏み切った可能性がある。今日では、政権交代に加え、金融危機を受けて会計不正よりも時価会計の景気増幅効果(プロシクリカリティ)が問題視されるなど、米国でも会計基準に対する姿勢には変化が生じている。

当初の目標を達成した欧州にとり、IFRSを高品質化するインセンティブは以前に比べ後退している可能性がある。一方、米国の立場は微妙だ。会計不正防止に躍起になっていた従前とは事情が異なるが、調整表を廃止した以上、IFRSが安易な妥協の産物になることは容認し難いだろう。今後、IFRSは欧米各国の思惑に大きく左右される状況が続きそうだ。

日本では、アダプションの対象は上場企業の連結決算とされ、非上場企業や単体の決算には引き続き日本基準が適用される見通しだ。ここで、コンバージェンスが進むと日本基準自体がIFRSに近付くため、このような区別の意義がなくなってしまう点に注意が必要だ。日本基準を現行に近い形で残すのであれば、コンバージェンスやアダプションの時期にも再考の余地がある。欧米の動向が不透明な今日、独自の判断が迫られていると言えよう。


(※1)金融庁は2012年にアダプションに関する意思決定を行い、(実施する場合は) 2015-16年とする案を公表している(米国はそれぞれ2011年、2014年)。
(※2)US GAAP以外の会計基準を採用する企業の財務数値に関し、US GAAPに準拠した場合の財務数値との差異を示す表。実質的に2つの基準に準拠した財務諸表を作成する必要があり、企業の負担は大きい。

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