なぜ人々は所有するのをやめるのか

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2009年11月05日

最近、人々はモノを自前で「所有」するのではなく、他人とシェアしたり、または必要に応じて借りたりするといった「利用」する場面が増えつつある。例えば、カーシェアリングでは都市部における短時間・短距離の移動手段としての利用が高まりつつあり、都市部では一部で自家用車と代替する可能性もある。最近ではクラウド・コンピューティングが注目されており、必要なソフトを自前で持たずに、外部のサーバーに随時アクセスすることでコスト削減が期待できる。また、住居でも賃貸住宅や中古住宅などのレンタル・中古市場の活発化も注目される。こうした一連の行動にはどのような背景があるのか。

ポイントは、社会全体がストック化(成熟化)していること、将来の不確実性が増大していること、の2つにある。これまでストックを積み上げてきたのは、将来も安定的に所得・収益が高まって市場も拡大すると考えていたからである。しかし、最近ではこうした前提も崩れており、逆に過剰となったストックが問題となっている。ここでストックとは、自動車等の耐久消費財や住宅、企業の場合には機械設備や工場などの有形資産、さらには知識や経験、ノウハウといった無形資産も含まれる。

ストックを自前で所有するメリットは、好きな時に好きな形で利用できる利便性・満足度の高さにある。例えば、設備投資は自社の計画に沿った生産ラインや人材を増やすことが容易である。住宅を取得すれば、希望に沿った部屋割りや内装も可能となる。

一方、ストックのデメリットはその所有コストの高さであり、ストックを取得・維持するための費用の大きさや時間の長さが挙げられる。もし中古市場が未発達であれば、投じた費用や時間といったコストを回収するまで身動きが取れなくなる。グローバル化で不確実性が増し、将来の所得・収益の増加が期待できない中では、費用対効果の低いストックの自己所有は次第に割に合わなくなっており、状況に応じてストックを「利用」する方がメリットは大きくなっている。最近、設備投資ではなく既存のストックを活用するM&Aが増加しているのは、こうしたストック化と不確実性の拡大が原因であると考えられる。

今後のビジネスでは、既存の有形・無形のストックを如何に有効活用していくかが重要になるものと思われる。例えば、企業間でストックの再配分を促すM&A市場のさらなる活性化や、既存の技術・ノウハウの他分野への応用、といった活用方法が考えられる。また、人々が共同で利用するインフラ的な要素を持つビジネスも、今後はストック化や不確実性の増大によるコストやリスクを克服する手段として有望かもしれない。

グローバル化や少子高齢化による国内市場の縮小は、「所有」から「利用」へと、我々の行動パターンの変更を促しつつある。しかし、こうした行動パターンの変更を逆手に取ることは、むしろ新しいビジネスを手に入れるチャンスでもあると思われる。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄