揺れる金融行政 ~次のターゲットは国際会計基準?~

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2009年10月15日

  • 吉井 一洋
モラトリアム法案の方向性が、多少なりとも見えてきた。報道によれば、当初は銀行に対して強制的に融資の返済猶予を求めるとの内容だったが、結局、「努力目標」として導入し、取組状況を金融庁に報告する内容に落ち着いた模様である。

融資の条件は銀行と融資先との契約で決められるものであり、いかに法律を制定するとは言え、事後的に強制的に変更を求めることは、憲法29条(財産権)や契約自由の原則違反の問題を惹起しねない。したがって、小職は、強制適用は難しく、任意適用とした上で、返済猶予の適用状況を、民主党が提案している地域金融円滑化法による地域貢献度の評価対象とすることで、金融機関の自主的な適用を促すといった措置がとられるのではないかと予想していたが、それに近い内容となる模様である。

ちなみに、モラトリアム法案導入を亀井金融担当大臣が示してから、TOPIXは4%下落しており、業種別株価指数で見ると、銀行業は7.2%、証券・商品先物業は7.7%、保険業は8.9%下落している。金融庁の主要な所管業種の株価がTOPIXを上回る下落を示している。

国民新党が3月13日に発表した緊急提言では、日本経済の足を引っ張る足かせとして、BIS規制、時価会計制度などを挙げており、これを「除去」することを提言している。BIS規制の最近の自己資本の質の強化の議論に対しては、金融庁は亀井大臣就任前から反対の姿勢を示してきた。おそらく、2010年末に内容が確定する新バーゼルⅡは、国内基準適用行に対してはそのままでは適用されないのではないかと予想される。

一方、時価会計制度関連で言えば、IASB(国際会計基準審議会)が7月に金融商品の評価・分類の基準案を公表して以来、国際会計基準に注目が高まっている。国際会計基準については、企業会計審議会が6月に中間報告を公表しており、アダプションに向けたスケジュール-2010年3月期から任意適用、2012年に強制適用の適否を判断し、強制適用する場合は2015年又は16年から適用-を示している。これに対して亀井金融担当大臣は、10月9日の会見で「そんなことはやりません」と否定的な意見を示し、日本の経営は、やはり日本の実態に合った形で会計基準も運用していくべきであるとの考えを述べられている。

大和総研が大和インベスター・リレーションズの協力を得て先般行なったアンケート調査(回答数は9月12日時点で財務諸表作成者75名、財務諸表利用者151名)では、コンバージェンが妥当か、アダプションが妥当かを質問した。結果は、アダプションが妥当との回答が作成者の35%・利用者の32%、コンバージェンスが妥当との回答が作成者の25%・利用者の34%、どちらも必要が作成者の24%・利用者の25%を占めていた。アダプションの支持率は「どちらも必要」との回答を含めると作成者・利用者とも過半を超えており、むしろ作成者の方が利用者を上回っていた。海外ではアダプションが主流となっており、アジアでは韓国やインドが近く強制適用を開始する。そのような中、わが国が取り残され、わが国の証券・金融市場がローカル市場化していくことの無いよう、前向きな取組みが望まれるところである。

もっとも、大臣は、各国の会計基準が同じというのは理想だ、恐らく将来一緒になっていく、といった見解も示されており、会計基準が統一化されていくことまでは否定されていないようにも思われる。アダプションにしろ、コンバージェンスにしろ、国際会計基準受け入れの動きは、今後も留まることは無いものと考えられる。

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