サービス業の生産性が向上しないもう一つの理由

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2009年08月13日

日本のサービス業の生産性が向上しないのは、非効率な供給体制が原因とする議論がある。果たしてそうだろうか。

一般に生産性が高いとは、少ない労働力で大きな収益を生み出すことである。製造業では機械といった有形資産を利用して、これまで人が担っていた作業を機械が代替して生産性を大幅に向上させることができる。一方、サービス業では直接に人を介した供給となりがちなので、製造業のように単純に機械で労働を代替することはできない。そこでサービス業で生産性を上げるには、機械化できそうな部分は出来るだけ機械化することで生産コストを下げて、そして人が行う作業をいくつかの単純なプロセスに分けることで安い賃金労働者でも作業できるようにパターン化していく、ことが考えられる。

さらにもう一つ、サービスを行う際の気配りの良さや信頼性などの目に見えにくい「無形資産」を活用することで、商品やサービスの価値そのものを高めていくことも考えられる。実は日本でサービス業の生産性が低い理由は、こうした目に見えない「無形資産」が市場であまり評価されていないことにも原因があるのではないか。

例えば、日本ではサービス業の接客は、一般的な店でも高級店でも諸外国と比べて非常に丁寧であるが、こうした対応を当たり前として積極的に市場で評価する土壌がなく、対価を支払う人々があまりいないために、サービス業の一人当たり収益の向上に貢献しないものと考えられる。一方、海外では優れたサービスを受けるには相応の対価が求められ、値段に応じてサービスの質に歴然とした差が存在する。したがって、日本におけるサービス業の低生産性は、サービス業における市場化の程度が低く、よって現在の市場評価ではコストを回収できていないことも原因としてあるように思われる。どこまで市場化を進めていくのかという視点が、サービス業の生産性の議論では欠けているのではないか。

もちろん、多くの零細な小売店や飲食店の存在が、サービス業の非効率性を生み出す大きな一因となっていることも否定しがたい。人口減少が顕著になってくると、労働集約的な産業構造では人件費は高止まりしてくるため、より効率的にサービスを供給するシステムを構築していくのは急務である。しかし、市場化の有無で生産性も変わってくるという側面も、やはり無視できないように思われる。よって、サービス業の非効率性を殊更に強調するのは、必ずしも正しいとはいえない。

目に見えにくいこうした「無形資産」は、今後の競争力の大きな源泉となりうる。質の高いサービスを対価も払わず当たり前と考えている限り、日本のサービス業の生産性は向上しないのである。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄