暗闇の出口はいずこに

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2009年06月23日

前回2月のコラムでは、世界同時不況に触れて、米国経済の落込み幅が日本やユーロ圏に比べて相対的に小さいことを指摘した。この関係は2009年になっても変わっておらず、09年Q1の米国の実質GDP成長率が前期比1.5%減だったのに対して、日本は3.8%減、ユーロ圏は2.5%減、イギリスは1.9%減と米国を上回る悪化となった(いずれの数値もOECDデータベースによる)。とはいえ、米国は34年ぶりの3四半期連続の減少であり、Q2もマイナス成長が見込まれている(実現すれば現方式では初めて)。だが、足もとでは減少率の縮小を示す指標が増えており、市場では加速度的な悪化から安定化に向かう過程にあるという認識が強まっている。実際、これまで見通しを断続的に引下げてきたIMFは、6/15に公表した対米第4条協議報告書のなかで09年の経済成長率を前年比2.5%減、10年を0.75%増と予想し、4月時点の想定(2.8%減、ゼロ%)からそれぞれ上方修正している。

ところで、長期金利が3月末から大幅に上昇し、昨年の量的緩和開始前の水準を上回っている。このような金利の上昇は、前述した(1)経済見通しの改善を反映している他に、(2)リスク回避の動きの低下と昨秋に発生した“質への逃避”のフローの巻き戻し、(3)膨張する財政赤字をマネタイズすることに対する懸念と関連してインフレ期待が上昇する、(4)海外投資家の一部で米国債の需要が減少している、など様々な要因が挙げられよう。以上の4点はアトランタ連銀のロックハート総裁が6/11の講演で指摘したものだが、ちなみに、彼は慎重ながらも(1)見通し改善が金利上昇に結び付いていることに共感を示した。また、(2)も金融市場が危機的な状況から脱していることの証左と捉えれば、ポジティブな要素といえるだろう。反対に、(3)や(4)はネガティブな印象を否めない。(3)の場合、景気対策の実施や税収減を受けて財政赤字が大幅に増加しているが、それに歯止めがかからないとみれば、市場の国債離れ、そしてドル離れが進んで一段の金利上昇につながる恐れがある。

いずれにしても金利上昇は、企業や家計など資金を調達する側にとってコスト増に他ならず、影響は避けられない。例えば、4年目に入った住宅市場の調整は住宅ローン金利の低下や住宅価格の下落、減税措置をプラス材料にして、低水準ながらも安定化の傾向を示してきた。しかし、足もとのローン金利の大幅上昇は住宅購入を計画していた人にとってはネガティブである。さらに、オバマ政権が推進してきた、低金利への借換え促進によって返済負担の軽減を図るプログラムも頓挫する可能性が高まってしまう。マイナス幅が縮小しているとはいえ、異常な悪化から普通の悪化に戻ってきたに過ぎない雇用状況を考慮すると、消費者を取り巻く環境は一段と厳しくなる。

一方で、住宅バブルの醸成の原因をグリーンスパン時代の金融緩和に求めるならば、事実上のゼロ金利だけでなく、緊急時の流動性供給や国債買取りといった非伝統的な金融政策を実施している現状を正常化させる作業、いわゆる出口戦略を考え始めること自体、当然であろう。特に、最悪期を脱して安定に向かっていると金融当局が認識していればなおさらだ。このように、金融政策は非常に難しい舵取りが迫られている。

バーナンキFRB議長の議長としての一期目の任期は来年1月末で切れるが(FRB理事の任期は2020年1月末まで)、果たしてそれまでに彼は暗闇のなかに神々しいばかりの光明を見出してくれるだろうか。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也