CSRの視点から農業の活性化を

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2009年05月18日

  • 横塚 仁士

私事ではあるが、筆者は栃木県南部の出身であり、実家では自家消費のためのコメと野菜を栽培している。筆者の家族は平日に企業勤めを行う一方で、休日の空いた時間を使って農業に従事してきた。

5月は例年、田植えの時期に当たるため、当家では4月の半ばより稲の管理をはじめとする田植えのための本格的な準備に入る。今年から実家の農業を手伝うことになった筆者も、今年のゴールデン・ウィークのほとんどを田植えのための農作業に当てることとなり、娯楽のために外出することはほとんどなかった。

農林水産省の『農林業センサス』によると、日本の兼業農家(※1)の全農業従事者に占める比率は、1960年の65.7%から1990年には84.6%にまで上昇した(※2)。つまり、農家の大部分が兼業であり、休日を農作業に当てる会社員が多いと思われる。しかし、農家全体の高齢化が進んでいる現状では、企業生活と農業を両立することは今後一層困難になると考えられる。さらに、兼業農家のなかには跡継ぎが就職や転勤などで遠方に移動したために担い手がいなくなり、自農地を他人に貸与または売却するケースもあると言われている。

最近、日本国内でも農業への関心が高まっており、企業による農業事業への参入、または農業分野での起業に関するニュースが目立つようになった。筆者は、これらの動きとの相乗効果も期待して、企業が社会的責任(CSR)の一環として「農業休暇」などの制度を確立・拡充することを提案したい。

CSRに関する重要なキーワードとして「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」が近年、大変注目を集めている。これは、家庭生活と両立しやすい職場環境づくりのために、育児や介護などに従事しやすい「両立制度」の確立などを目指す考え方である。兼業で農業を営む社員にとっては、農業は生活を構成する不可欠な要素であり、社員が農業に従事しやすい仕組みを企業が設けることはCSR活動として意義のあることだと考えられる。

企業が兼業農家をサポートする仕組みを作ることは、社内の士気向上につながるだけでなく、農業を通じての地域社会への貢献、さらには日本の食料安全保障にも一定の役割を果たすと期待できる。実際に、福井県では、県とJA福井県中央会が同県の商工会議所連合会に対し、社員の「田植え休暇」を企業が設けることを促進するように求めた(※3)という動きも出ている。

「100年に一度」と言われる世界的な金融危機のなかで、日本でも農業に対する関心が高まっているが、このような機会を生かして、ぜひとも日本の企業にはCSRの視点から農業の活性化をサポートすることを期待したい。

(※1) 第1種兼業農家(農業による収入が主)と第2種兼業農家(農業による収入が従)の合計。

(※2) 2000年以降の農業センサスは統計の方法が変更になったため、1990年までのデータとは接続しない(荏開津典生『農業経済学[第3版]』(岩波書店)より引用)。2005年農業センサスでは、販売農家のうち約77%が兼業農家であった。

(※3) 09年4月16日毎日新聞地方版より。

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