2008年省エネ法改正の意味するところ

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2009年05月14日

  • 真鍋 裕子

4月30日の政府発表によると、わが国の2007年度温室効果ガス排出量実績は、13億7,400万トンであり、1990年比(※1)9%増とのことである。「京都議定書」において、2008~2012年の平均値で1990年比6%減を公約している日本は、もはや自国の削減による達成は厳しく、海外調達による排出権頼みという状況に追い込まれている。

そのような中、昨年5月に省エネ法(※2)が改正され、今年4月より一部施行された。残念ながら、今回の改正が2012年までの温室効果ガス排出削減に与えるインパクトは限定されるが、中長期的な日本の省エネルギー・温室効果ガス排出削減に向けた体制・基盤づくりに前進があったと筆者は考える。

省エネ法は、2度のオイルショックを経た1979年、資源輸入国のわが国において、エネルギー資源の有効な利用を推進するために制定された。制定当初は、産業部門における省エネルギー推進が中心であったが、1997年京都議定書採択以降は、1990年比大幅な増大を示す民生業務、運輸、家庭部門におけるエネルギー消費が問題視され、改正を繰り返しながら、建築物、輸送、機械器具(家電等)へと対象範囲を広げてきた。省エネ法は、日本の産業界の効率性追求を後押ししてきた法律であり、昨今では途上国において手本とされている法律でもある。

従来、省エネ法においては、一定規模以上(※3)のエネルギーを消費する「事業所」に対して、エネルギー管理(エネルギー使用状況の報告、省エネの中長期計画の提出、管理者の設置等)が義務付けられてきた。改正により、義務付けの対象が、「事業所」単位から「事業者(企業)」単位となる。複数の事業所を有する企業は、各事業所の合計エネルギー消費量が一定値を超える場合、新たに管理義務の対象者となる。小規模店舗を多数有するフランチャイズチェーン等を含め、対象範囲が一気に広がることとなった。

対象が事業者単位になることは、エネルギー管理が、現場だけでなく経営層に求められてきたことを意味する。従来、省エネ法の対応は、各事業所の現場担当者に委ねられてきた。現場担当者が、エネルギー消費の増減について分析し、限られた予算内で省エネ計画を立て、法律遵守の負担を担ってきた。改正により、各企業には、企業全体のエネルギーを鳥瞰的に管理する、役員クラス相当のエネルギー管理統括者を置くことが義務付けられる。今後は、経営層に対して全社的なエネルギー管理責任が問われることになる。

今回の省エネ法改正は、ボトムアップの省エネからトップダウンによるカーボンマネジメントの時代への誘いとなろう。2009年4月に経済産業省から発表された「省エネ化と「省エネ産業」の発展について」には、CGO(Chief Green Officer (※4))という言葉が用いられている。昨今グリーン購入やカーボンフットプリント、カーボンオフセットといった自主的な活動が広がっているが、各社のCGOが、「法律遵守」に留まらず、「自主的な活動を行わないリスク」を把握し、攻めの「環境経営」について語る日が来ることを期待したい。

(※1) ここでいう1990年排出量は、京都議定書における基準年排出量をさす。日本はCO2については1990年排出量、その他温室効果ガス(フロンなど)については1995年排出量を合計したものを基準年排出量としている。

(※2)エネルギーの使用の合理化に関する法律

(※3)一定規模以上とは、年間エネルギー消費量の合計が原油換算で1,500kL以上を示す。経済産業省発表資料によると、コンビニエンスストアで30~40店舗、ファミリーレストランで15店舗が目安。

(※4)最高エネルギー・環境責任者/エネルギー・環境担当役員。企業のエネルギー・環境戦略の立案・執行に責任を有するトップマネジメント担当者のこと。CSO(Chief Sustainability Officer)と呼ばれることもある。(省エネ化と「省エネ産業」の展開に関する研究会(第4回)資料より)

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