1月6日付文部科学省通知を踏まえて

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2009年03月12日

  • 内藤 武史

去る1月6日、文部科学省より『学校法人における資産運用について』が通知された。その経緯は「学校法人の資産運用については、各学校法人の責任において行われているところであるが、現下の国際金融情勢等を受け、各学校法人に対し、注意を喚起する観点から意見を取りまとめた」ということであるが、昨年11月に公表された大手大学のデリバティブ取引による多額の損失問題が契機となったことは明らかだろう。ちなみに、文部科学省によると“通知”の意味するところは“お願い”であり、法的拘束力やそれに伴う罰則事項などは存在しないという。

先の大手大学は平成19年度の運用利回りが5%を超えていた。同年度の10年国債利回りが1.6%弱であったことを勘案すると「相応のリスクを取っている」とみなされる水準である。したがって、BNPパリバがサブプライム問題で3つのファンドを凍結したことを発端に市場の雲行きが怪しくなってきた平成19年夏頃から警戒感を強めるべきであったし、それこそデリバティブを活用してポートフォリオをヘッジすべきであった。ところが各種報道によれば、大手大学は昨年7月に外資系証券数社を使って、金利スワップ取引や通貨スワップ取引を交わしたのである。つまり、ポートフォリオに保険を掛けるのではなく、一段のリスクを取りにいってしまったのである。大手大学の教訓が示しているのは、デリバティブが危険なのではなく、その使い方を誤ったということである。特に運用資産に占める仕組債の保有比率が高い学校法人はデリバティブそのものを投資目的で使うのはいかがなものか。相場の急変動が予想される局面でポートフォリオのリスク・ヘッジ手段として活用すべきではないか。

学校事業収支は年々悪化し、平成18年度は遂に事業外収支が学校事業収支を逆転した。もはや事業外収支の拡大によって帰属収支差額をカバーせざるを得なくなってきている。こうした中で学校法人が資産運用収入を拡大しようとしているのは至極自然な成り行きである。重要なのは資産が学校法人の運営目的に適合する形で運用されることであり、そのためには運用管理体制を確立することが不可欠である。さもなければ運用に関する権限や責任の明確化は困難である。本来、資産運用の決定は学内組織の委員会で決定すべきものだが、特定の運用担当者に任せているケースが依然多いのが実情であり、運用管理体制が整備されていない学校法人も多い。

そこで具体的方策が求められる。それは第一に資産運用規程の整備、第二に資産運用委員会の設置である。資産運用規程を整備することによって、運用規模の拡大や運用対象の多様化等に対する学校法人としての対応・方針を明確にすることができる。盛り込むべき事項としては、(1)資産運用規程の目的、(2)運用の原則・目標、(3)運用資産の区分定義、(4)運用の対象となる金融商品や運用限度額・信用格付け等、(5)運用体制・手続、(6)理事会・理事長・財務担当理事・運用執行責任者・監事の権限と責任、(7)運用状況のモニタリングなどが挙げられる。さらに資産運用委員会を設置して資産運用規程を実効性のあるものにしなければならない。その際、資産運用委員会の役割は理事長や財務担当理事の諮問機関として機能することであるから、専門知識を有する外部委員を登用することが重要なポイントとなる。現在、資産運用委員会を設置している学校法人は少なくないものの、外部委員を登用している学校法人は未だ少数派とみられる。某宗教法人では一昨年、財務管理委員会を設置し、税理士と民間シンクタンク研究員を委員に選定した。保守的イメージの強い宗教界にあって、外部委員を登用したことは注目に値しよう。

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