シンガポールの“水”戦略

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2008年12月22日

  • 高品 佳正

シンガポールは東京23区程度の小国で資源に乏しいが、ライフラインの1つ、水も例外ではない。雨量は多いが、地理的に保水力に乏しいためである。従って、建国以来、同国は隣国マレーシアに飲料水や工業用水を大きく依存している。マレーシアからは1961年、62年の両年に結んだ契約に基づき1,000ガロン当たり0.03マレーシア・リンギッドで原水を購入している。契約は2011年と61年に改定期限を迎えるが、改定に際し、大幅な引き上げを主張するマレーシアと同国は過去に激しく対立した。また、原水が供給されるパイプラインはテロの標的になっていたと指摘されたこともある。契約改定交渉で優位な立場を確保するとともに、水は国家安全保障の観点からも重要であることから、近年、同国は水の自給率アップに積極的に取り組んできた。

自給率アップの柱は、(1)国内貯水池の拡大、(2)下水再生水「ニューウォーター」プラントならびに(3)海水淡水化プラントの設置。貯水池は15カ所目(金融街が面するマリーナ湾内部を淡水化する初めての都市型貯水池)、「ニューウォーター」プラントは5カ所目となるそれぞれ大型設備が稼動に向け準備が進んでいるほか、海水淡水化プラントも小規模ながら05年から稼動している。同国の水の自給率は00年の数%から現在60%強まで上昇、近い将来、100%を達成することも可能になると見られている。

同国は水の自給自足にめどを付けたばかりでない。水処理関連事業を成長ビジネスの柱の1つに据え、官民あげ「ウォーター・ハブ」構想を推進している。水処理技術蓄積を進めるため、外資企業を同国へ積極的に誘致しているほか、同国の水処理関連企業は水自給率アップで培ったノウハウを携え、中国、インド、中東など高成長が期待される新興市場への事業展開を始めている。かつての弱みを強みに変え、成長に結び付けていく同国のたくましさに感心させられる。

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