持続性の高い「まち」再構築へ

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2008年12月04日

  • 中里 幸聖

世界的な金融危機により足元の経済は混迷の気配が濃厚となっている。さらに、我が国の足元では少子高齢化と人口減少という人口構造変化が進行し、特に地方圏においては深刻化している。いわゆる過疎化の進展のみならず、「限界集落」 (※1)と呼ばれるような状況が生じており、いずれ「消滅集落」となる地域も今後増えていくであろう。

マクロ経済学的な視点では空間的な発想はしばしば捨象されるが、現実には空間的な要素は大きな影響を及ぼす。特に生活者の視点で見たとき、日常的な移動手段である徒歩や自転車、自動車、軌道交通(鉄道、路面電車、新交通システム等)で移動しやすい範囲が物理的な経済活動及び社会活動の場となる。もちろん、前世紀末から顕著になったインターネットをはじめとする情報通信分野の飛躍的な発展・浸透により、かつてない程に活動領域が拡大した面がある。しかし、人間も生物である以上、衣食住の基本は物理的な制約を受ける。「どこでもドア」や「タイムマシン」等が現実とならない限り、時空間的な要素を十分に考慮することが必要である。そのように考えると、様々な構造変化を見据えた上で、どのように「まち」を再構築していくかが地域再活性化にとって重要である。

その際、コンパクトシティという方向性が一つの鍵になる。郊外化・スプロール化を抑制し、街のスケールをコンパクトにした「まちづくり」を目指すことにより、効率的な行財政資源配分や人口減少・高齢化の下でも「まち」の賑わいを実現しやすくなる。また、コンパクトな「まち」に即した公共交通機関を整備することで、環境にも親和的な「まち」を構築できる。実際、青森市や富山市などいくつかの地方自治体では既にその方向に取り組んでいる。また、2008年の国土交通白書では集約型の都市・地域づくりが取り上げられ、総務省の「定住自立圏構想」も選択と集中の考え方により地方への人口定住を提唱している。

戦後の我が国では全国均一の国土発展を目指した時期があったが、現実には大都市圏への集中と地方圏の衰退という状況が生じている。持続性の高い「まち」を大胆に再構築する取り組みを契機に、地域を再活性化する。我が国の閉塞感を打ち破るには、地方の取り組みによって中央を変えていく発想が今こそ求められる。

(※1)「65歳以上の高齢者が集落人口の半数を超え、冠婚葬祭をはじめ田役、道役などの社会的共同生活の維持が困難な状態に置かれている集落」(大野晃「限界集落-その実態が問いかけるもの」農業と経済2005年3月号、昭和堂)。

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