バイオベンチャー投資再考

2008年11月20日

  • 新規産業調査部 浅野信久

10月下旬にDNAの構造を決定した研究者の1人として世界的有名なジェームズ・ワトソン博士が来日した。同博士らのDNAの構造モデルの発表が1953年であるから、DNAの2重らせん構造が発表されてから、今年は早くも55年目にあたる。バイオの話題といえば、今年は、年明けからiPS細胞の話題が沸騰し、旋風のごとく世間を席巻した。早くも10年近く前のことになるが、2000年に年初からヒトゲノム情報の全解析のニュースが世界を駆け巡り、空前のゲノムベンチャーブームが巻き起こったことが懐かしく思い出される。iPS細胞はどちらからといえば、技術進歩に関する話題であるが、今年は日本のバイオビジネスの新しい動きにも事欠かない年である。

それでは、注目の話題を列挙してみよう。1つは、日本の大手製薬企業によるバイオベンチャー買収の活発化である。日本の製薬企業による外国バイオベンチャーの買収は海外でも注目のトピックとなった。この11月にドイツで開催された国際的なバイオ会議であるバイオユーロ・カンファレンス2008では日本の製薬企業とのアライアンスがシンポジウムテーマの1つとなっているほどである。2つ目は、大手製薬企業発のベンチャーの誕生である。ノバルティス社、メルク社など欧米の日本研究所の閉鎖が相次いでいるが、ファイザー社日本研究所はファーマ・ベンチャーとして独立する(カーブ・アウト)という道を開拓した。そして、3つ目は、北海道大学発のバイオベンチャーであるイー・ベック社がドイツのベーリンガー・インゲルハイム社との金額規模の大きな提携に成功したことである。今年の下期は、金融経済の危機的状況から、バイオビジネスの明るい話題に目を留める余裕がなくなってしまっているかもしれないが、日本のバイオビジネス界は国際標準スキルをキャッチアップし、そのビジネスモデルを高めてきていることに、ぜひ目を向けてほしい。

海外では、抗がん剤開発バイオベンチャー・イムクローン社の買収をめぐって、ブリストル・マイヤー・スクイブ社と、イーライ・リリー社が名乗りを上げ、最終的にイーライ・リリー社が市場株価を大幅に上回る高値で買収することに決まったことが話題を呼んでいる。高値となった理由には、IPOや上場株価の場合にはまず毎期ごとの企業業績動向が注目指標となるが、今回の買収では内在する知的財産価値がクローズアップされたからである。IPOに加え、アライアンス(提携)やM&Aがバイオベンチャーの成功の出口として、今、クローズアップされている。

ところで、日本の上場バイオベンチャーの株価は低迷している。市場全体の不振も影響しているが、通常の業種の企業と同様に、バイオベンチャーにおいても業績数字が重要な指標となっていることも起因していよう。バイオベンチャーが収益を生み出すには、ビジネスモデルによるが、どうしても5年、10年といった長い期間を要してしまう。このため、まとまった成果が出るまで、長い間、業績は赤字続きで、業績重視相場では株式市場の評価はどうしても低くなってしまう。だが、実際には、各ベンチャーは研究開発を進めているわけで、知的財産価値を蓄積しているはずである。この意味では、バイオベンチャーの投資価値をより正しく評価してもらうために、まずベンチャー自らも、蓄積されている知的財産価値の数値による「見える化」を一層促進することが、必要ではなかろうか。これは、投資家が知的財産価値をより容易に深く理解しうる情報に触れるチャンスをさらに増やすことにつながろう。海外には、すでにバイオベンチャーの企業価値評価サービスを第三者的立場で専門的に行うコンサルティング企業がある。ベンチャー側がより公正で中立的な情報の公表に配慮するなら、こういった第三者的評価機関の利用も一案だろう。これらの努力が功を奏して、業績のみならず、企業価値評価にもこれまで以上に考慮した投資姿勢に転換していけば、バイオベンチャー投資も一層、話題先行ではなく、数理エビデンスに基づくより精密な投資へその姿を変えていくことだろう。また、医薬品産業において、バイオベンチャーは、(1)医薬品シーズの創発機能のみならず、(2)研究開発リスクの分散機能、(3)研究開発パイプラインのアーカイブス(倉庫)機能、(4)研究開発パイプラインのインキュベーション機能という4つの重要な機能を持っていることも忘れてはならないことであろう。                       

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