中国の大型景気対策

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2008年11月17日

  • 小林 卓典

麻生政権が打ち出した定額給付金の受給資格や支給方法などを巡る議論も、ごく好意的に解釈すれば、金融危機の影響が欧米と比べて軽く済んでいる日本の余裕の表れというべきだろうか。ただし、もともと財政支出による景気対策は、国民が将来の増税を予想しないことを前提に支出増加を導こうとする、ある種の錯覚を利用した面がある。今回の場合、3年先とはいえ消費税率の引き上げに言及したことは、この錯覚による支出効果を、自ら否定してしまうことにもなるのだが。

日本でこうした悠長な議論がなされている間、世界経済は悪化の度合いを強めている。特に注意すべきは、ここまで世界同時不況の防波堤となってきた中国経済に変調の兆しが見え始めたことである。夏場の中国経済の減速は、北京五輪にともなう交通と生産規制の影響による一時的なものという見方もあったが、乗用車販売の減少、住宅販売の不振など、高額な消費支出を抑制する動きは、中国にも例外なく景気減速の圧力が及んできたことを表している。

中国政府は11月5日に総額4兆元(日本円で約57兆円)の景気対策を発表した。2007年のGDP比で16%に相当し、大規模な景気対策の発動には、成長率低下に対する中国政府の危機感が感じられる。中国の財政状況に余力があることは疑いないが、それでも資金調達に必要となる大幅な国債増発をどうするかなども含め、政策の具体化は、おそらく来年3月の全人代まで待たなければならないのではないか。今後、積極的な財政政策と金融緩和によって9%程度の経済成長を確保することになれば、中国が世界同時不況を回避するアンカーとして、一役を担うことになるだろう。

これまで日本の輸出市場としてのアジアには、欧米とは異なって金融危機の影響が深刻な形で及んでいなかったが、中国の成長率が落ち込むとなれば話は別で、その場合、日本の景気後退は厳しさを増すことになるだろう。中国の大型景気対策は日本にとっても朗報といえるが、ただし念のため、世界同時不況の深化という有事に備え、悠長な議論もほどほどにしておくべきではないだろうか。

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