金融危機に対応する中国の強み

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2008年11月05日

  • 肖 敏捷

2007年末時点の高速道路の総延長は、日本が8,984Kmであるのに対し、中国は5.5万Km、前者の約6倍に相当する長さである。国土面積が日本の25倍という広さから考えれば、日中の高速道路の長さを単純に比べる意味はないかもしれない。しかし、1997年に遡れば、日本の高速道路が6,114Kmに対し、中国は4,800 Kmに過ぎなかった。わずか10年の間に、中国の高速道路の総延長は年平均30%増のスピードで急速に伸びてきたのである。

中国が高速道路網の整備に本格的に乗り出す契機となったのはアジア通貨危機である。1997年7月2日、香港が中国に返還された翌日、タイのバーツが急落し、アジア通貨危機の幕開けとなった。厳しい資本規制が敷かれていた中国は通貨危機の直撃を免れたものの、周辺諸国の景気悪化で輸出の減速は余儀なくされた。一方、アジア通貨危機が起きる前に、景気の過熱感やインフレの高進を抑制するため、1994年夏以降、中国政府は引き締めを強化してきた。その後遺症がまだ残る中でアジア通貨危機が起きたため、1998年の実質経済成長率は7.8%増と、引き締めが始まる前のピーク時(1992年が14.2%増)の約半分まで急減速した。最低でも8%の成長を確保しなければならなかった中国政府にとっては、中国経済をいかに不況から脱出させるかが急務となった。

そこで打ち出された対策が、長期建設国債の発行であった。1998年から2000年までの間に、中国は合計3,600億元の建設国債を発行した。この建設国債を利用し、高速道路などのインフラ整備を中心に合計6,620件のプロジェクトが立ち上げられ、総事業規模は2.4兆元に達した。この景気対策の経済効果について、中国の研究者の試算によると、経済成長率は1998年に1.5%、1999年に2%、2000年に1.7%押し上げられたとみられる。

10年前と比べて、海外投資家による人民元建て株式への投資を条件付で解禁(QFII)するなど緩和措置が導入されたものの、厳しい資本規制は依然続いている。また、外貨準備高も10年前の1,399億米ドルから1.9兆米ドル(2008年9月末時点)まで急増した。従って、金融危機による中国の金融システムへの影響は極めて限定的であるはずだ。しかし、実体経済に目を向けると、引き締め政策の影響と外需の悪化など、10年前とほぼ同じような展開となっている。

2008年第3四半期の成長率が約3年ぶりに一桁台まで鈍化したのを受け、政府は景気対策の策定を急いでいる。こうしたなか、需要喚起策の切札として期待されているのが、建設国債の増発を通じて鉄道網の整備を加速させるという提案だ。第十一次五ヵ年計画(2006年~2010年)では鉄道への投資額は1.25兆元の予定だったが、計画が大幅に上方修正される可能性が高い。アジア通貨危機は高速道路網、グローバル金融危機は鉄道網。内需拡大の余地が大きいことは中国の強みかもしれない。

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