原油の需給と投機マネー

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2008年07月09日

  • 山田 雪乃
原油の高騰を巡って、産油国は投機マネーに、先進国は供給不足に、その説明を求める傾向にある。6月のサウジアラビア・ジッダの会議で、日欧は投機と需給の双方が問題だとの認識を示したが、米国は「投機家が原油価格を押し上げているという証拠はない」とした。米商品先物取引所は、価格高騰への投機マネーの影響力は小さい、という立場にある。

その米先物市場で、農産物や原油の取引規制が検討され始めたが、現時点では情報公開の整備に留まっている。寡占度の高いニッケル市場では規制が価格を抑制したが、市場参加者が多い原油市場では、即効性のある効果は出にくいだろう。コモディティ市場の中でも、資金が流入しているのは原油やトウモロコシ、大豆など需給が逼迫しているものだ。鉄鉱石や石炭など相対取引が主体の市場でも、需給が逼迫しているからこそ、大幅高で契約価格が決定した。「初めに需給ありき」なのだ。

需給面から見てコモディティ価格が調整する場合を想定すると、需要が価格上昇に耐えられなくなった時、安価な代替品へのシフトや技術革新が起きた時、政府等による強制的な規制が実施された時などになるだろう。インドや中国など新興国では、5月末以降、ガソリンの統制価格が軒並み引き上げられている。だが、中長期的な輸送部門向け原油需要の増加を考慮すれば、世界原油需給の緩和には更なる引き上げが必要とされる。また、70~80年代のオイルショック時には、発電燃料の代替等で、世界エネルギー消費に占める石油のシェアは78年の約15%から86年の約5%へ低下したが、約8年の歳月を要している。このように見ると、需要を急激に減少させるような即効薬は見つからない。「漢方薬」を気長に飲み続け、体質から変えていかなければならないだろう。

原油や穀物など原材料価格の高騰による世界的なインフレ圧力が続く中では、企業業績の改善への期待は低下せざるを得ず、コモディティ投資から得られるリターンは高いとの判断が続くだろう。確かに、金融市場からシフトしてきた資金は逃げ足の速い資金であり、いったん需給が緩和すれば、一気に市場から流出する傾向は強い。だが、逆に言えば、需給が実際に緩和するか、需給が緩和するとの見通しが強まってこない限り、コモディティ市場への資金流入が続くことを意味する。コモディティ市場への選別的な資金流入はしばらく続かざるを得ないと言えそうだ。

ただし、新興国における値上げや先物市場における投機資金規制の動きが更に強まっていけば、複数の対策による総合的な効果が発揮され、需要は徐々に鈍化していくだろう。需給緩和観測が一気に高まれば、ニッケルや小麦のように、原油価格も大幅調整するリスクは高い。

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