事業継続計画(BCP)の必要性

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2008年06月20日

  • 大村 岳雄
四川省大地震、そして岩手・宮城地震と地震の被害は絶えない。

従来から地震に対しては防災対策が策定されてきたが、この目的は従業員の安全や本社・工場などの建物の資産保全が中心であった。従業員の安全確保はもちろん第一であるが、企業活動が経済社会全体のサプライチェーンに組み込まれている昨今では、事業継続計画(以下、BCP)策定の重要性がこれまで以上に高まってきている。

防災対策とBCPの違いを、対策、対象範囲、評価の視点から確認してみよう。

対策面では、防災対策の場合、耐震設備や消火設備等の導入・充実や災害対策のための体制整備(緊急連絡網、安否確認システム)、避難訓練の実施、非常食/飲料水など備蓄品の確保などがある。一方、BCPの場合には、これらに加えてさらに一歩踏み込んだ計画の策定が必要になる。非常時にどれだけ事業に影響を及ぼすのか(ビジネスインパクト)を分析し、どの事業を継続すべきかの絞込みが必要となる。その際、自社の利益確保が優先か、地域社会への貢献を優先するかは経営層として判断の必要がある。また、事業再開までの目標復旧時間についても、被害想定、公共インフラの復旧などを勘案しながらどの程度とするか目安を決めておく必要がある。

対象範囲の点では、防災対策の場合、本社・工場・営業所など事業拠点単位の対策となる。本社ビルなどフロアー毎に防火対策責任者を認定しているのがその例である。これに対し、BCPの場合、業務プロセス全体を考慮する必要がある。重要な事業に関る商品やサービスは、今や工場、物流センター、営業所、子会社・協力会社そして本社と一連のサプライチェーンを通じて提供されているからである。

評価の点では、防災対策の場合、災害による人的・物的損害を低くすることで評価されるが、BCPの場合、重要な事業を継続させること、地域社会と協力関係を築きあげることなどにより評価される。

BCPの策定は、現段階では会社法や金融商品取引法での内部統制整備のように制度化されていない。しかし、BCPの策定により災害に強く、サプライチェーンの中で供給責任を果たせる企業となることは、企業価値の維持・向上につながる。

まずは少しずつでも準備を始めてみてはどうだろうか。

防災対策と事業継続計画(BCP)の違い

  防災対策 事業継続計画(BCP)
目的 従業員の安全、建物等の資産保全 重要な事業の継続
(主要な商品やサービスの継続的な提供)
対策
  • 耐震設備や消火設備等の導入・充実
    (転倒防止策の実施など)
  • 災害対策のための体制、避難訓練の実施、非常食/飲料水など備蓄品の確保
  • 被害状況の確認
  • 建物、設備などの復旧
など
左記に加えて、
  • ビジネスインパクト分析
  • 重要な事業の絞込み
  • 目標復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)の設定
  • BCPの発動基準
など
対象範囲 事業拠点や組織単位でも対策が可能 重要な事業の業務プロセス全般
評価 人的・物的な損害を低く抑えること。
  • 災害対策投資レベルの適正化
  • 商品やサービスの提供レベルの維持

  (出典)各種資料より大和総研作成

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