証券化とグローバルな信用の拡大

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2008年03月07日

  • 土屋 貴裕
銀行は自己資本比率の維持を求められることから、無制限にバランスシートを拡大させるとはできない。だが、実行した融資を証券化して売却すると、自らのバランスシートを拡大させることなく、手数料収入を得ることができる。その後のサービサーとしての資金回収業務においても、手数料が得られる場合もある。転売可能性が高ければ、量的な拡大のみならず、質的にリスクのある貸出にも関与し易い。当然ながら、信用リスクは投資家に移転されるわけだが、証券化を通じることで、結果的に経済全体における与信が拡大しやすくなる。広範囲にリスクが移転されたことが、サブプライムローン問題をわかりにくくした。

さて、本稿の対象はサブプライムローン問題ではなく、証券化を通じた信用の拡大である。

BIS規制が導入された経緯には、1980年代に薄い自己資本のままでバランスシートを拡大させた邦銀の行動を抑制する目的があったとされる。邦銀は簿価会計で含み資産を保有していたことが、バランスシートを拡大させる余力をもたらしていたわけだが、こうしたバランスシート拡大は、同じ「銀行」としての国際比較、国際競争上の問題とされたわけである。

それでは、証券化を通じた与信の拡大はどうだろうか?

銀行のバランスシートの規模が大きく変化せずに、社会全体における与信が拡大しているが、資金仲介機能が高まっているという面では、社会的にメリットがもたらされていることになる。だが、資産価格の上昇に依存した信用の拡大であれば、与信の拡大がさらに資産価格の上昇に結びつき、マネーの流通速度を低下させ、バブルとしてのリスクに転化した。

また、国内外の資金フローへの注目が必要となる。信用創造による与信の拡大であれば、国内経済(同一通貨圏内)のみでも帰結する。だが、証券化商品は移転が容易であり、国境を越えた資金フローが発生し、国内の貯蓄に依存せずに、海外の貯蓄を利用することがより容易になるのである。こうした国外からの資金調達による与信の拡大は、場合によっては銀行等の資金調達・運用環境へ働きかける金融政策の効果を低減させる可能性をもたらす。現状のように原資産である資産価格が下落し、派生商品が値付けされるクレジット市場への警戒感がある場合、市場からの資金調達(証券化商品の売却)に依存している銀行の与信は、困難さを増すことになる。原資産価格の下落幅の低減を除き、金融緩和策が十分に機能しない可能性が高い。

資産価格の下落に対応するためには、どこかがバランスシートを拡大させる必要がある。かつての日本や90年代初めの米国であれば、政府と政府保証のもとで預金保険機構がそのバランスシートを拡大させた。今回の米国は、政府が減税という形で家計のバランスシートを膨らませ、SWFなど海外資金を利用したバランスシートの修復が試みられているのである。

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