経済のグローバル化、金融技術の進歩と金融政策

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2007年10月23日

  • 土屋 貴裕
金融政策の効果は、主に銀行の融資や預金、資本市場における金利裁定を通じて、消費・貯蓄行動(含む投資)に影響を与えてきた。経済のグローバル化が進み、金融技術が進歩しているもとで、金融政策はどのように変化するのであろうか。

近年、銀行は貸出債権のリスクに応じた株主資本を求められることになった。当然、リスクの高い貸出債権へのヘッジニーズが高まるが、こうしたリスクをリパッケージし、外部へリスクを移転できる技術も同時に登場してきた。言うまでもなく、証券化であり、クレジット・デリバティブ等である。

オフバランス化できる証券化であれば、金融政策の効果の違いは、ある程度予測できる。貸出債権を証券化しても、最劣後部分は銀行自身が保有することが多く、貸出先へのモニタリングの重要性に変わりはないからである。

しかし、CDS(Credit Default Swap)等のクレジット・デリバティブの登場は事情をさらに変化させたと考えられる。ローンのCDSの購入とは、一定のプレミアムを支払うことで、当該貸出債権のデフォルトリスクのプロテクションを得ることだが、こうしたプロテクションを購入した銀行は、貸出先をモニタリングするインセンティブが低減することになるためである。反対に、他の国におけるクレジット・リスクを保有している可能性もあろう。銀行のバランスシートに貸出債権やリスクは残っても、企業財務の悪化に対する銀行のモニタリング行動が従来と異なってきたことで、貸出を通じた金融政策の影響力が変化してきた可能性がある。

また、今般の市場の混乱にみられるように、CP等のリファイナンスが困難になれば、銀行はバックアップライン(あるいはコミットメントライン、ブリッジローン)による意図せざる貸出増に迫られることになり、増大するリスク量によっては、かつて日本でみられたような貸し渋り、貸し剥がしにつながる可能性がある。貸出が増加するなかでの金融の引き締まりも生じ得ることになる。

すなわち、中央銀行は、金融政策の効果をより明確に顕現化させるためには、政策金利を従来よりも大きく変化させる必要性が出てきた可能性があるということである。

一方、顕著に景気が悪化してきた時点で、金融政策は急速にその効果を現してくることになろう。その時に政策金利はすでに中立水準から大きくふれていることになるため、反対方向への動きも大きくならざるを得ない。

こうした伝統的な経路からの金融政策の効果が弱まっている可能性がある以上、中央銀行は、引き締め、緩和にある程度の余力をもたせる誘引がある。経済のグローバル化が進む中で、金融政策は後手に回る可能性があり、インフレ圧力が残り続ける可能性に大いに留意する必要があろう。逆に、信用リスクが市場で取り引きされるようになったことは、金融政策の変更に際して、中央銀行はより市場を注視しなければならなくなったことを意味する。

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