今後の証券・金融税制試案

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2007年08月31日

  • 吉井 一洋
8月30日に金融庁から平成20年度税制改正要望が公表されるなど、年末の税制改正に向けた証券・金融税制の議論が活発化してきている。個人金融資産のうち株式や投資信託といったリスク資産の占める比率は上昇しつつあるもののまだ10%程度に過ぎず、50%を超える現金・預金に比べるとまだまだ低い。いわゆる「貯蓄から投資」は道半ばである。

さらに株式の場合、配当については法人と個人の段階での二重課税が問題となる。しかし二重課税は配当だけでなく、株式の譲渡益についても生じている。法人段階で課税後の利益が内部留保されそれが株価に反映される。その結果、株主が譲渡する際には当該内部留保が株価を通じて実現するからである。即ち株式から得られる利益(配当・譲渡益)の法人・個人を通じた税負担は、法人段階では課税されない(損金算入)利子と比べて重くなる。単純に個人の段階で税率を揃えれば、利子、配当、譲渡益の課税のバランスがとれるわけではない。

秋以降の議論では、金融所得課税一体化がテーマとなる旨が新聞各紙等で報じられている。現行の10%の税率維持が最もシンプルな方法ではあるが、仮に一体化が避けられないとしても、「金融所得間での幅広い損益通算」と「金融所得に同じ税率を適用する」といった特徴を維持しつつ、株式や株式投資信託への優遇税制を維持する方法はある。具体的には、以下の課税方法が考えられる。

(1)上場株式、公募株式投資信託の譲渡益・譲渡損の2分の1を他の金融所得と合算する。
(2)株式の配当や株式投資信託の収益分配金もその2分の1を課税対象とする。ただし、長期保有促進のため株式を購入してから3回目(年1回配当の場合)からは非課税とする。

2分の1課税にすれば、税率は他の金融所得の税率(20%)とそろえながらも、実質的な税負担を10%に抑えられる。さらに、株式譲渡損を利子等の他の金融所得から控除した場合の税負担軽減効果も10%に抑えられる。課税と控除のバランスが取れるわけである。配当の場合は、二重課税の問題が譲渡益よりも顕著に現れるので、長期保有のものについては非課税とする。

一方、納税方法に関しては、最近では特定口座の適用対象拡大を主張する意見が多く出てきている。特定口座で損益通算すれば、申告の手間は省略できるし、年間取引報告書等も税務当局に提出されず、取引が捕捉されることは無いからである。しかし、そのためには、一つの金融機関の特定口座に損益通算の対象となる取引を集約する必要がある。投資家の中には、それぞれの取引について専門性の高い業者との取引を望む投資家も多い。各種の取引について最もサービス内容の高い金融機関を選択したいと望む投資家も多い。例えば、特徴のある投資信託やIPOの株式を購入するために、メインの金融機関以外の証券会社と取引することも考えられる。また、コンサルティングを行う業者とネット業者を併用したい投資家もいる。このような点を考えるとベースは申告納税とし、その手続きを簡素化する方法を検討すべきである。少なくとも一つの特定口座への集約を損益通算の条件とするような制度にはすべきではない。

損益通算の範囲拡大に伴う租税回避を防止するため、特に預貯金の利子のような大量発生する所得と損益通算を行うにあたっては、金融所得を対象とした番号制度を導入する。ただし、損益通算を希望する納税者に限り、番号の取得を求める。証券会社・銀行等は、番号を取得した納税者に対して、譲渡損益、配当、利子などの金額と番号を記入した取引報告書を送付する。納税者はこれに基づいて確定申告を行う。

給与所得者等の納税事務負担軽減のため、その際の確定申告書には、給与所得等は記入せず、証券・金融取引の所得のみを記載すればよいこととする。証券・金融所得の申告書や取引報告書等は電子申告で送付できるようにする。このようにすれば、申告制度の事務負担も相当程度軽減できるであろう。

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