ダークプールが創る次世代の証券ビジネス

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2007年08月13日

  • 伊藤 慶昭
欧米証券業界では電子私設市場(PTS:Proprietary Trading System)の発達に伴い、取引の流動性が分断され、いかに流動性を確保・集約して約定率を向上させるかが大きな課題であった。これが最近になって「ダークプール」という言葉のもとで改めて脚光を浴びるようになっている。

ダークプール(Dark Pool)とは直訳すると「見えない流動性」、つまり基本的には取引市場に公開されていない流動性や取引参加者等の匿名性が確保された取引環境を意味する。ダークプールに関する市場モデルに言及すると、公開板が存在しない状況で取引参加者同士が直接、株価や数量等の取引条件を交渉するクロッシング・ネットワークが該当する。また欧米取引所では株価と気配が公開されているものの、市場によっては全体の注文量から一部だけ板に公開する特殊注文機能を提供していることから、非公開の注文部分がダークプールと解釈できる。米調査会社のセレントによれば、欧州主要取引所であるユーロネクストでは、流動性全体の3割程度がダークプールに該当すると分析する等、取引市場やセルサイドが流動性を確保する上で決して無視できない要素と言えよう。さらに「非公開の流動性」という概念で捉えれば、バイサイドからセルサイドに届いた計らい注文やセルサイドの内部クロス(取引所を通さず執行)も考慮する必要がある。

このようにダークプールが注目される背景として、従来から指摘されてきた流動性の分断に加え、注文の小口化による約定率の低下が挙げられる。従って取引相手へ手口を公開することなく、売買目標により執行し易い点でバイサイドからの活用ニーズが高まった。同時にセルサイドにとっては、アクセスが限定される流動性に対して、発注経路を持っていることは他社への優位性に繋がる。ITの観点からみれば、アルゴリズム・トレーディングやDMA(Direct Market Access)をはじめとする電子取引の発達により、取引所へ発注する前に内部クロスや私設市場での執行を試みる取引手法が普及したことも、ダークプールへの発注を促進させることに寄与したと考えられる。

さらに、ダークプールを引き金に今後、証券ビジネスが大きく変化する可能性がある。例えばアルゴリズム・トレーディングは、マーケット・インパクト抑制を目的とした注文の小口化が主な機能であるが、ダークプールを探索・発見する機能も追及していかなければならない。またセルサイド各社や取引市場が抱えるダークプールを相互接続する、あるいは分散するダークプールを集約するプロバイダーが出現すれば、それ自体が使い勝手の良い取引市場の役割を果たすことから、既存取引所の流通市場にとっては脅威となりかねない。

所変わって日本の証券業界に注目すると、東証が2009年末から次世代システムの実施を計画している。新システム実施を皮切りに取引の高速化とトランザクションの激増が確実となり、ひいては取引形態や証券ビジネスの劇的な変化を唱える意見が多く聞かれる。しかしながら東証のシステム刷新をよそに、外資系金融機関がクロッシング・ネットワークの相互接続を開始する等、取引所外での動きも着々と進行しており、東証の実施を待たずして変化の兆しは始まっていると言えるであろう。

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