過剰流動性と『マネー』指標の再定義

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2007年07月19日

  • 土屋 貴裕

現在、貸出が下げ止まったなかで、代表的なマネー指標であるM2+CDの伸びは低調である。

今日、(少なくとも短期的には)日本においてシンプルなマネタリズムは当てはまらないことが明確になっているが、「流動性相場」、「世界的な過剰流動性」といった言葉が使われているように、貨幣量の増減が金融市場を含め、経済に与える影響を考慮する見方は根強い。

しかし、どこまでが貨幣量やマネーの範囲に含まれるのだろうか。例えば、預金を取り崩して国債が購入されると、M2+CDは減少するが、国債が含まれる広義流動性に変化はない。マネーの定義に立ち返って考えたとき、決済へ用いやすさの程度もあるが、将来の支出に向けた価値保存ができていれば、より広義のマネーを定義することができる。国債購入と同様に、預金から株式への資金シフトはどうだろうか、また市場性のない金融商品を購入した場合はどうだろうか。さらに、それらの含み益をも考慮する必要がある。

国債や株式は伝統的な金融商品であるが、REITやプライベートエクイティ、各種商品、デリバティブ等への投資によって、様々な対象が金融商品として取り込まれてきた。将来への価値保存が可能な上に流動性(換金しやすさ、Finalityのある決済への用いやすさ)が高まっており、より広く「マネー」に定義されうる範囲が広がり続けている。

次にリスクである。現代ポートフォリオ理論では、相関の低い商品同士によるポートフォリオの構築によってリスクの分散効果が得られ、リスクを削減することが可能であるとする。金融商品の選択肢が世界的な規模に拡大することで、相関の低い商品をポートフォリオへ組み入れやすくなり、よりリスクの低減を図ることが可能になった。同じリスク量であれば、さらに投資を拡大することも可能になる。また、CATボンドやデリバティブなどの発達は、リスクの移転を容易なものとし、リスクヘッジをよりたやすくした。リスク許容量は投資家によって異なるが、そのコントロールも行いやすくなった。

つまり、グローバリゼーションが進み、様々な対象が金融商品となることで、マネーの範囲が拡大すると同時にリスク管理の手段が増え、リスクを減らせるようになってきたのである。

さて、マネタリズム的な発想にこれらをあてはめて考えると、流動性の変動が実体経済に与える影響は「マネー」の定義次第で変わってくることになる。金融政策がより重要であると見なされるようになった現在、「マネー」の範囲の再定義が求められていると言えるだろう。折しも、日銀がマネーサプライ統計を見直すことになった。金融商品の進化とグローバル化という変化のなかで、経済状況や金融環境のクロスチェックのためにも「マネー」の定義は代わり続けることになるだろう。

(参考) 日本銀行ホームページ 「マネーサプライ統計の見直し方針」

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