内部統制報告書に関する府令案公表を受けて

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2007年06月12日

2007年5月17日、金融庁は、「証券取引法等の一部を改正する法律の施行等に伴う関係内閣府令案の公表について」を発表した。この中で、金融商品取引法による上場会社等の開示強化、即ち、「四半期報告書」、「有価証券報告書等の記載内容の確認書」、「内部統制報告書」の細目案が示されている。とりわけ、内部統制報告書については、2007年2月15日に公表された企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」・「財務情報に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」も含めて、ようやくその全貌が見えてきたと言える。これらを踏まえて、2008年4月1日以降開始する事業年度からの適用開始をにらみ、各企業は対応を進めることになる。こうした機会に、内部統制システムに関する「そもそも論」を再確認することは無益ではないだろう。

「会社法上、大会社等に対して、その体制の整備に関する取締役会決議が義務付けられる内部統制システムは、会社の業務・活動全般に関わるものである。それに対して、金融商品取引法上の内部統制報告書で問題となるのは、あくまでも『財務報告の信頼性』についての内部統制システムである」とよく言われている。もちろん、このこと自体は正しい。しかし、それは、全般的な内部統制システムの問題は会社法施行(2006年5月)と共に終わったという意味ではない。これからは金融商品取引法上問題となる『財務報告の信頼性』だけを考えていればよい、ということにはならない。

 同様に、「会社法上は、何らかの決議さえ行っておけば、直接法令違反に問われることはない。それに対して、金融商品取引法上は、適切な体制が整備されていなければペナルティがある」ともよく言われている。もちろん、このこと自体は正しい。確かに、会社法上は、取締役会決議を行って、その内容を事業報告で開示することが求められているだけである。それに対して、金融商品取引法上は、内部統制報告書に虚偽記載があれば刑事責任・民事責任を問われることとなる。また、内部統制報告書が監査を通らなければ将来的には上場廃止の危険性もある。しかし、それは、会社法に基づく全般的な内部統制システムはいい加減で構わないということを意味するものではない。

一つの企業体・企業集団の内部統制システムである以上、『財務情報の信頼性』に関する部分を重点的に見直すことはあっても、『財務情報の信頼性』に関する部分だけを他から切り離して整備できるとは考えにくい。また、法令・規則上のペナルティがないとしても、万が一、不祥事が発生した場合、経営陣は内部統制システムの不整備の結果責任を問われる。その意味では、金融商品取引法に基づく内部統制報告書導入を機会に、会社法レベルでの全般的な内部統制システムについても見直しを行うことは有益なことだと思われる。それによって、開示情報に対する投資家の信頼を得ると同時に、「不祥事を許さない企業」として企業自体の信頼性向上にもつながると期待できるだろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳