MBO(マネージメント・バイ・アウト)と少数株主保護

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2007年05月16日

  • 吉井 一洋
最近、MBO(マネージメント・バイ・アウト)が注目を集めだしている。MBOとは買収対象会社の経営陣が、自ら経営していた会社を買収したり、事業を譲り受けたりすることをいう。MBOは投資ファンドの協力を得て行われることが多い。具体的には、経営陣と投資ファンドが出資してMBOの受け皿会社(SPC)を設立し、当該SPCが対象会社の株式をTOBなどにより取得する方法で行われる。通常は株式の100%取得を目指し、少数株主を現金合併、略式合併、簡易組織再編、株式併合、取得条項付種類株式の利用といった手法を用いて、排除(スクイーズアウト)する。上場企業がMBOの対象となる場合は、それによって非上場化されることになる(いわゆる「ゴーイングプライベート」)。

MBOを実施する経営陣は対象会社の買主であると同時に、売主でもある。買主の立場からは、出来るだけ安く買うほうが有利である。しかし、経営陣が対象会社の取締役である場合、経営陣は、会社の株主にとって利益となるように行動しなければならず、会社を出来るだけ高く売らなければならない。よって、MBOを行う対象会社の経営陣は利益相反の地位に立つこととなる。したがって、MBOを実施するに当たっては、経営陣やファンドが少数株主から不当に安い価格で株式を取得することのないよう注意する必要がある。

わが国では、少数株主がMBOやその買付価格に対して反対する例はあまり見られなかった。しかし、最近では、レックス・ホールディングスの株主が、買取請求権に基づき裁判所に買取価格の決定を申し立てた例や、テーオーシーのMBO目的のTOBが、買付価格に不満を持つ同社の大株主のダヴィンチ・アドバイザーズによる対抗TOBにより不成立に終わった例などが出てきている。

制度面では、強圧的な二段階買付を防止するためにTOBにおける全部買付義務を導入する、MBO目的のTOBの買付者である経営陣が利益相反回避措置を講じている場合はその内容の開示を求める、TOB価格の算定にあたり参考とした第三者による評価書等がある場合はその写しの添付を求める、TOB価格の公正性を担保する措置を講じている場合はその内容の開示を求めるなど、少数株主の保護のための手当てがなされつつある。しかし、米国などに比べるとまだまだ未整備である。

米国では、利害関係のない取締役からなる特別委員会を取引の当初から設置し、取引の交渉・精査・承認、他の選択肢の検討を行うことが実務慣行として定着している。外部の独立の専門家からフェアネス・オピニオンの提出を求めることも重視されている。しかし、わが国では、このような実務慣行は確立していない。買付対象会社の取締役がMBOの提案に賛同の意見表明をした場合にも、参考にした第三者による株価算定書の開示は義務付けられていない。クラス・アクションが可能な米国と異なり、わが国では買付価格に不満を持つ少数株主を救済する方法としては、買取請求権の行使しかない。しかもその際の鑑定にかかるコストもかなりのものであるとの指摘もある。少数株主保護に向け、早急な制度の整備が望まれるところである。

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