内部統制の先にあるもの ~業務の品質保証から戦略意思決定の品質保証へ~

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2007年04月13日

  • 川田 武文
金融商品取引法(いわゆる日本版SOX法)により2009年3月決算から全上場会社に義務づけられたのが、内部統制の課題である。これは正しい決算書を作成するための内部統制が有効に機能しているかを、経営者が点検して内部統制報告書を作成し、これを会計士が第三者の立場から監査するというものである。もっともこれに対応する仕組みやその運用は新しいものではなく、むしろ上場会社である以上すでに高いレベルにあると想定するのが自然である。しかし、ここで企業が負担感を持つのは、その求められるレベルがこれまでに比べて格段に高いという点である。

さて、ここで注目したいのが、会社法、金融商品取引法、証券取引所、金融庁等が強力に推進している内部統制に対する、資本市場とりわけアナリストの反応である。大和総研、大和証券SMBC共催で本年2月に開催した第4回経営戦略研究所セミナー「求められる内部統制」において、先進的な内部統制の取組みをされてきた企業のご担当者(IRもご担当)から、「これまでアナリストから内部統制について質問されたことはない。やっていて当然という感覚だ」という趣旨のご発言があった。

このご発言は、示唆に富んでいる。内部統制がいかに精緻、厳格に構築され運営されていても、それは業務の品質保証がされているにとどまる。そしてその高品質な業務があるだけでは、事業の競争力が高く、資本コストを上回る利益を継続できる保証にはならない。すなわち、企業価値向上の観点からは、高品質な業務だけでは不十分であり、高品質な事業、さらにさかのぼって高品質な戦略意思決定が必要なのである。したがって、内部統制という「業務の品質保証」の先にあるものは、「戦略意思決定の品質保証」といえよう。あるいは戦略意思決定の品質保証までを含めて「広義の内部統制」と定義することも有意義だ。

戦略意思決定においては、合理的な各種戦略案の分析・選択が課題である。ここで重要なのは、上場企業の場合、常に資本市場を通じた(時として敵対的なTOBによる)外部者の多様な提案、評価にさらされているという意識である。企業価値の最大化を基軸に、企業の内外をとわず戦略案を選別していくことは、資本市場の基本機能である。そして戦略意思決定の品質保証とは、意思決定のプロセスと意思決定者の当事者能力の保証であり、コーポレートガバナンスの本質につながるのである。

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