世界の外貨準備はゆっくりと分散していく

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2007年04月11日

  • 土屋 貴裕
IMFによると、2006年末の世界の外貨準備のうち、通貨の内訳がわかっている分では、およそ6割が米ドルとなっている。しかし、外貨準備が増加しているロシア、中国、UAE等で、外貨準備の通貨構成を見直すことが伝えられている。外貨準備を保有する当該国の通貨価値が上昇した場合、外貨準備の価値が相応に失われることになるが、通貨分散により損失を相対的に軽度なものにとどめることができるためである。より収益性を重視したアロケーションの選択とリスクを分散させる外貨準備の構成を目指す可能性が指摘できる。

すでに、世界の外貨準備のうち、米ドルが占める比率はじりじりと低下してきている。2000年頃には71~72%であったが、2006年末には65%を切っている。通貨内訳の未判明分が上昇しており、米ドル、ポンド、日本円、スイスフラン、ユーロといった主要通貨以外の通貨での外貨準備も増えている。

数年前まで、外貨準備を急増させてきたのは通貨高対策として市場介入を続けてきた日本を含めたアジア諸国であった。最近、外貨準備が際立って増加しているのは、貿易黒字に加えて通貨安定のための介入を続ける中国、資源価格高の恩恵を受けるロシア等である。

これらのうち、外貨準備が1兆ドルに達した中国は、世界の外貨準備の増加率への寄与は3分の1程度を占める。だが、外貨準備の増分(前月差)と対米証券投資額(フロー)を比較において、対米証券投資額は、外貨準備の増分に見合った増加になっていない。すでに増加し続ける外貨準備について、米ドル建て資産での運用を減らしている可能性があろう。第三国やユーロ市場を経由した米ドル建て資産取得の可能性もあるが、データを見る限り、数年前から計画的に投資対象を分散させてきたと見られ、今後も通貨分散の傾向は継続すると考えられるだろう。

それでも、市場規模を考えると米ドル建てでの運用が大半にならざるを得ない。また、保有先を米ドルから変更することは、米ドルの下落につながり、既存保有分の減価を招くことになる。結果的に、既存分の外貨準備を米ドル以外に大量に振り向ける可能性は小さくなっていく。また、外貨準備の適正な規模は、短期的な対外債務や国内の金融環境、そして月々の輸入量からある程度は類推できても、1990年代の金融危機の記憶が新しい現在、市場環境の変化等に備えた外貨準備の積み増し分等を考慮するとなれば、明示化することは困難である。

この他、中国や途上国では、外貨準備をユーロ等、米ドル以外の通貨でも保有する傾向があるが、一方の先進国は相対的に米ドル選好が強く、これらが今後シフトする可能性は現状では小さい。全体でみて、既存分の外貨準備が大幅に米ドルから動いていく可能性は小さいと言えよう。外貨準備の通貨構成比を変更することは、市場に大きな影響を与え得るが、現実的な運用のことを踏まえれば、その変化は新たな外貨準備の増分の配分先変更を中心としたゆっくりとしたペースにならざるを得ないだろう。

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