団塊世代の地方移住は進むか

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2007年04月03日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

2007年に入り、団塊世代が順に定年を迎えている。これに目を付けた多くの自治体が積極的に施策を打ち出して、退職後の団塊世代を招き入れようと勧誘している。その世代の移住先では消費や建設の需要が盛り上がるかもしれない。あるいは蓄積されている技能や人脈によって、地域経済を活性化させる狙いがある。人口の塊である団塊世代がどれだけ移動するかは、小売業の店舗展開など、ビジネス上の戦略とも密接に関連する。

そもそも、団塊世代は学歴の上昇とともに都市に移動し、都市で仕事に就き、都市に定住した世代といえる(※1)。進学期や就職期の居住地移動は可逆的で、人々は定年を機に故郷へ戻るだろうか。団塊世代は人数が多いので、マスコミが個別的な移住の事例を紹介することは増えていくだろう。

しかし、団塊世代の地方回帰が大規模に進むとは予想できない(※2)。団塊世代は人生の中で最も資産残高が大きく、自由な時間をふんだんに持つ60歳代を迎えた。60歳代とは健康が維持されていて、人生を楽しむ時期である。都市に定住した団塊世代は、住み慣れた都市で暮らし続けていくだろう。

なぜなら、便利で楽しい商業施設や、豊かで充実した文化施設、安心できる医療供給体制などが整備されている地域に、人々は集まるものだからである。規模や集積のメリットによって、都市部では生産性や生活水準の高さが維持されている(※3)。また、これからの60歳代はさまざまな形態で働き続けるケースが増えていく点でも、雇用機会の多い都市部を離れにくい。親の介護が必要だとしても、昔とは違い介護保険や介護サービスの供給がある(※4)

分散から集積へ

これまでのような分散型の経済圏形成では、公共インフラなどの社会的コストがかさんでしまう。それぞれの地方や地域の中においても、商業施設や公共施設をある程度集積させたコンパクトな町づくりが求められている。人口減少・高齢社会を迎えた日本では、コスト低減と生産性向上のために、ヒトやモノを分散させるのではなく集積させるという視点が必要だろう。

もちろん、地域運営は必ずしも大都市を目指す必要があるわけではなく、大都市でありさえすればうまくいくというほど単純ではない。団塊世代にとっての都市アメニティーの追求に成功する地域の登場はぜひ期待したい。

ただ、団塊世代の移住によって、すべての地域が発展するのは不可能だ。各自治体が横並びで似たようなことをやろうとしても、うまくいかないのではないか。仮に、経済力や知恵を持つ団塊世代の誘致に成功しても、将来は社会保障などの費用負担が地域の大問題になる懸念もある。分権によって、自由な発想と結果の責任が委ねられるべき地方のこれからが問われている。

(※1)詳しくは、原田泰・鈴木準・大和総研編著「2007年団塊定年! 日本はこう変わる」(日本経済新聞社)参照。

(※2)人口移動が考慮された国立社会保障・人口問題研究所の「都道府県の将来推計人口(平成14年3月推計)」を見ても、05年から10年後の15年にかけて団塊世代人口の絶対数が増加する都道府県はない(死亡等があるため)。また、全国団塊世代の都道府県別シェアの変動を純移動と見なすと、都道府県を越える移動による団塊人口の変動はネットでわずか9万人、1,000人中9人程度という計算になる。

(※3)地方の物価や地価が都市部よりも安いから地方に移住するだろうという説明には無理がある。価格メカニズムが機能していれば、現在のそれぞれの地価はそれぞれの魅力や将来像を織り込んだものになっているはずである。

(※4)加えて、新幹線や空港、高速道路網の整備が進んだことにより、介護のために日本国内を移動することは容易になっている。

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鈴木 準
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