株式市場は機能しているか

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2007年02月20日

  • 中野 充弘
株式市場に求められる基本的な役割として、「資金の調達機能」「資源の分配機能」「資金の運用機能」の三つが挙げられる。資金を必要とする企業に対してリスクマネーを供給し、市場メカニズムが働いて資金が適切に産業・企業間に分配され、そして企業の成長の果実をリスクに見合ったリターンとして資金運用サイドは手にすることができ、最終的に国民生活が豊かになる。

このところの株式市場は日経平均が6年9ヶ月振りの高値となるなど、明るいムードが広がっている。確かに株価の上昇は投資マインドを明るくし、新たな投資資金を呼び込むきっかけとなる。しかし、より重要なことは「株価が上がること」ではなく「市場が機能すること」ではないだろうか。現在の株価上昇は景気の回復や企業業績の拡大などファンダメンタルズに裏づけられたものと見られるが、十分に市場が機能しているのかといえば、まだ不十分なところがあるように思える。それは「資金の調達機能」が弱いためだ。

端的な例が新興市場の不振だろう。2006年の新規公開企業数は188社で前年の158社から30社増加し、2000年の204社以来の高い水準となった。しかしその内訳をみると、従来型企業の新規公開が多くみられ、革新的なビジネスモデルを提案する企業は数少ない。そのことが、(1)公開時には需給面から高評価となるものの、その後は株価低迷を余儀なくされる企業が多い、(2)短期的な業績の動向に投資家の関心が集中し過ぎ、四半期決算で株価が大きく振れる、といった最近の新興市場のネガティブ要因につながっているのかもしれない。

誤解を恐れずに極論をいえば、新興企業は長期的な投資対象として魅力を発揮すべきだ。設立当初の数年は先行投資などが膨らむことを考慮すれば、仮に赤字決算であってもその企業の本質的な評価に大きな変化はないはずだ。投資家はそうした目先の収益リスクを十分承知したうえで、新興市場に投資すべきではないか。

このように考えていくと、現在の株式市場の問題は魅力的な企業が不足していることにつきる。高齢化社会を目前にし、地球環境問題なども切実な課題となっているなかで、そうした社会的ニーズに応えるベンチャー企業の創出が重要と考えられる。例えば30年後に振り返った時に、「あの頃の時代背景からあの企業が生まれたのだ。」と言われるような企業の登場が待ち望まれる。19世紀の鉄道や90年代の米国IT相場がそうであったように、技術革新とリスクマネーの供給が結合した時に、新しい産業が育ち、有望企業が誕生・成長し、力強い上昇相場となる。

その意味では、株式市場が、割安を評価するのではなく、成長性を評価するように転換していけるのかどうかが今後の注目点と思われる。そして、その主役となるベンチャー起業家の育成こそが重要な鍵を握っているといえるだろう。

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