IT技術者と専門分野

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2006年11月30日

  • 小原 誠
経済産業省によれば日本のIT技術者は56万人である。業界別の技術者数としては、建設土木技術者の89万人に次ぐ専門技術者集団となる。

一般的に業界が成長すると、専門分野の細分化が行われる。例えば建築業界で言えば、構造計算書偽装問題でも話題となったように、建築確認、構造計算、建築行為、完了検査などの工程を、建築士、施工管理技士、指定確認検査機関などの専門技術者がそれぞれ担当している。IT業界も例外ではない。経済産業省は情報処理技術者試験ITスキル標準(ITSS)を設定し、専門分野を細分化している。情報処理技術者試験は、プロジェクトマネージャやデータベースエンジニアなど14の専門分野に区分されている。因みに、年間受験者は60万人であり、計算上はIT技術者全員が毎年受験していることに相当する。ITSSでは、ITコンサルタントなど11の専門分野と、経験・実績を考慮した7段階のレベルを組み合わせたスキル体系が規定されている。

しかしながら、こうした制度にもかかわらず、IT業界では、IT技術者と専門分野の関係が甚だ曖昧と言わざるを得ない。

問題のひとつは、ITの専門分野が認知されていないことにある。私の建築業界の知人は、一級建築士やインテリアコーディネータなどと自己紹介し、周囲も納得する。しかし、IT技術者が、「ITアーキテクト(レベル5)」などと自己紹介しても、一般には殆ど理解されない。しかたなく、「コンピュータ関係」などと曖昧な自己紹介をするのであるが、その結果、ハイレベルのIT技術者が、パソコンの不具合について相談を受けたりするようなミスマッチが生じかねない。IT技術者を専門分野で表現しにくいことが、両者の関係を曖昧にしている。

何故、IT専門分野の認知度が低いのか。情報処理技術者試験やITSSの設立趣旨を再確認すると興味深い点に気付く。情報処理技術者試験は、「技術者としての知識・技能の水準を認定する試験」であり、ITSSは、「IT関連サービスの提供に必要とされるスキルを体系化した指標」とされている。情報処理技術者試験やITSSは、IT技術者を中心に、ITサービス提供側の論理から専門分野を区分しているのである。そこにはITサービス利用者の視点は薄い。

IT専門分野を、ITサービス利用者との関係を意識して再設定することが望まれる。そのことにより、IT技術者の専門性が明確となり、認知度の向上につながるであろう。

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