望まれる、過年度財務諸表の遡及修正導入

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2006年11月08日

  • 吉井 一洋
過年度の財務諸表の遡及修正に関する議論が本格化してきている。遡及修正は、IFRS(国際財務報告基準)とのコンバージェンスの項目として取り上げられており、ASBJ(企業会計基準委員会)が、プロジェクトチームを設けて検討している。IFRSでは、会計方針の変更などがあった場合に、過年度の財務諸表を遡及修正することとしている。これに対して、わが国では、これまで商法・税法の制約から、過年度の財務諸表の修正はできないこととされていた。しかし、新会社法では、過年度修正が容認されている。これを受けて、過年度財務諸表の修正に関する議論が本格化しているわけである。ASBJでは、来年(2007年4~6月)にも、論点整理を取りまとめる予定である。

現行制度では、例えば、X2年度に会計方針を変更した場合、その旨とX1年度までに適用していた会計方針をX2年度に適用した場合との損益等の違いを開示することになる。しかし、これではX1年度とX2年度の損益は、あくまで古い会計方針をベースに比較することになる。新しい会計方針に基づいて損益の時系列の比較を行うためには、過年度の財務諸表を新しい会計方針に基づいて修正することが望まれる。

遡及修正が必要となるケースとしては、会計方針の変更だけでなく、表示の変更、重要な誤謬、廃止事業などがある。このうち、重要な誤謬は、他の項目とは性格が異なる。重要な誤謬があるということは、過去の財務諸表が間違っていたということであり、これは必ず修正する必要がある。現行制度でも、重要な誤謬があれば有価証券報告書を訂正する必要がある。遡及修正が必要な場合、どれだけ過去に遡って修正するかが問題となるが、実務的には、有価証券報告書等で比較財務諸表として挙げられている前年度の財務諸表に留めるといった対応も考えられる。しかし、重要な誤謬については、誤謬が発生した年度から修正する必要がある。廃止事業に関しては、どのレベル(セグメントか、店舗か等)の事業の廃止まで修正を求めるかといった問題も検討する必要がある。

過年度財務諸表の遡及修正を行った場合、重要な誤謬のケースを除き、過去に提出した有価証券報告書等の訂正までは求められないと思われる。ただし、アナリストはデータベースの修正が必要となる。会計方針が変更される都度、過去のデータの修正が必要になる点について実務上煩雑との指摘もある。しかし、会計方針が変わった場合、将来の収益は新しい会計方針に基づいて計上されるわけであり、将来の収益予測のためには、過去の情報についても古い会計方針ではなく新しい会計方針に基づいた数値を分析する必要がある。したがって、アナリスト等の利用者は、過年度財務諸表の遡及修正導入を想定して、データベースの修正の問題への対応を今から検討しておく必要があるのではないかと思われる。

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