少子化を招いている待機児童問題

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2006年10月03日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
少子化と労働力減少の問題を同時に緩和するには、子育てしながら働ける環境の整備が必要である。近年、女性の労働参加率は上昇し、いわゆる「M字カーブ(※1)」は解消してきたようにもみえる。しかし、それは独身者や子供のいない既婚者の割合が高まったためでもあり、本来求められるM字カーブ解消の姿ではない。一方、出産を契機に退職する女性がまだまだ多いのが実際であり、育児休業を取得できても復職は簡単でないのが現実である。

日本では、祖父母が子供を預かる場合を除けば、育児と仕事を両立させる手段は保育所だけである。ところが、希望しながら入所できずにいる待機児童数は2005年で2.3万人と依然多い(※2) うち1.6万人は0歳児~2歳児で、出生数の傾向的減少にもかかわらず低年齢児で待機児童問題が深刻になっている。

もちろん、政府や自治体は対策を講じてきてはいる。しかし、定員(入所児童)を増やしても待機児童が減らないのは、入所をあきらめているような潜在的な待機児童が、首都圏だけでも24万人いるためといわれている(※3)。親の立場から言えば、就業と育児の両立をやむを得ず断念している人がいかに多いかということだ。

これは、子供を持つ親だけの問題ととらえるべきではない。供給不足で育児サービスを購入できるとは限らないのなら、子供を持ちたくても仕事を続けたい女性は出産をちゅうちょする。子供を産むと、仕事をやめなければならないリスクが高いからである。少子化を食い止めるには、働く女性が出産できるように待機児童問題を本気で解消する必要がある。

保育所サービスの改善余地は大きい

現状の保育所は高コスト構造を抱えており、効率化や新規参入によって待機児童を減らす余地は大きいと思われる。東京都のある区の例では、公設公営保育所の定員1人当たり総コストは年間236万円だが、保育内容に差がないとする民設民営の認可保育所は156万円である。また、内閣府の分析(※4)によれば、官民の保育所の効率性が最も効率のよい民間並みに改善できれば、保育所全体の生産性は34%も上昇するという。

入所先やサービス内容の選択を認めた利用者に公費を直接補助するなどして、保育所間の競争を促すべきだろう。現在は、公費投入により保育料が安価になっている認可保育所に超過需要が偏在しており、サービス提供が効率化しにくいばかりか、子供を入所させられたか否かで不公平も生じている。両親が働けるようになる家計や、子を持つ意志のある就労女性の保育料負担能力は高いのだから、低所得者以外にはサービスの質や量に合わせた保育料を設定し、保育サービスの需要と供給を一致させる必要もある。

(※1)女性に関して、横軸に年齢、縦軸に労働力率をとって折れ線グラフを描くと、出産・子育て期(20歳代後半から30歳代)にくぼみがみられ、アルファベットのM字型になる。このM字カーブは、日本以外の先進国ではほぼみられなくなっている。

(※2)各種報道によると、06年の待機児童数は2.0万人となったもよう。

(※3)内閣府「保育サービス市場の現状と課題 -『保育サービス価格に関する研究会』報告書- 」(平成15年3月28日)。

(※4)内閣府政策効果分析レポート「医療・介護・保育等における規制改革の経済効果-株式会社等の参入に関する検討のための試算-」(平成15年5月)


本コラムは、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社、2006年7月25日号)への寄稿
「待機児童問題」を一部修正・加筆したものである

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鈴木 準
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