Webフリー百科事典「ウィキペディア」にて「SOA」を寄稿してみた

2006年8月18日

  • 情報技術研究所 小川創生

Web上でなにか調べ物をするとき、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」のお世話になる割合が年々高まっているのを実感している。お世話になる相手は、ほとんどの場合、無名のボランティア寄稿者である。

ウィキペディアは、2001年1月に英語版が開設されて以降、拡大の一途を辿っている。2006年8月現在で、言語数は200以上、記事数はまもなく500万を突破する見通しである。日本語版も2003年頃から急激に記事数や利用者数が増加しており、現在の記事数は24万を超えている(言語別で第5位)。英語版の記事数130万にはさすがに及ばないものの、すでに「広辞苑」(項目数23万)は上回っている。

ウィキペディアは、ネット上で誰でも自由に閲覧できるだけでなく、原則として誰でも自由に記事を編集できる。その特徴こそが目覚しい発展の源泉となっている。その一方で、どこの誰が編集したのか知れないウィキペディアを懐疑的にみる人々も多い。これは言語や国の別を問わず言えることである。記事の内容の是非、さらには編集そのもののあり方についての議論が、各所で展開されている。

そうしたなか、ウィキペディア英語版について2005年12月に科学雑誌「ネイチャー」オンライン版が掲載した調査結果は、少々の驚きを伴う話題となった。百科事典の権威である「ブリタニカ百科事典」とウィキペディアとを比較、検証してみたら、科学分野の記事の正確性では同等であったというのである(その後、ブリタニカ側が反論し、それをネイチャーが再反論するといった状況となっている)。

実のところ、日本語版の記事が存在していても、同じ項目の英語版のほうを(英和辞典を引きながら)参考にしてしまうことが度々ある。英語版と比べて日本語版は、内容が浅薄であったり、ウィキペディアの基本方針である中立的な観点を欠いていたり、匿名掲示板と同様の不適切な書き込みが加えられたりといった場合が多いからである。もちろん、そうではない場合もあるし、日本語版にも優秀かつ献身的な寄稿者は多数いる。とはいえ、他言語版と比べてユーザ登録を行わない(匿名性がより高い)寄稿者が多いという統計も存在している。ともすれば日本語版は、閲覧に堪えるべき百科事典を執筆しているという自覚を欠いた寄稿者の割合が高いのではないか。

「そういう文句を言うなら、あなた自身が寄稿したらどうか」と、時々自問することがある。ただで利用できるサービスに文字通りただ乗りして、自らは何もしないでいることに、いささかの疑問は感じるし、批判の説得力も失せるであろう。

昨年の11月に「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」の日本語版記事を私的に寄稿したのも、そうした思いがきっかけの一つであった。

あらためて、ウィキペディアへの寄稿には多大な労苦を伴うということに気づかされた。そもそも、寄稿できる記事の分野というのは、多少なりとも知識を持ち合わせているはずの事柄である。しかし、いざ百科事典的に解説しようとすると、さほど詳細に書くつもりがなくても、関係資料をあらためて調べなければならない。そして、材料を整理し、構成を考え、一字一句に気を配りながら作文し、気になった点をまた調べ直し、ひとまず書き上げた後も、修正と読み返しを繰り返す。気が付くと週末の夜が明けていた。

このような労苦自体は、共同執筆による拙著でも同様に経験していたのだが、明らかに違う点が少なくとも二つある。一つ目は無償の奉仕活動である点、二つ目は著書よりも中立的な記述を心掛けなくてはならない点である。「ウィキペディアン(Wikipedian)」と呼ばれる人々は、そうした条件の下で、労苦をいとわず記事の寄稿や編集に勤しんでいる。筆者はここ最近、彼らへの仲間入りができないでいる。

さらに、ひとたびウィキペディアに寄稿すると、その記事を業務では利用できなくなる可能性があることに注意しなければならない。ウィキペディアでは、GFDL(GNU Free DocumentationLicense)と呼ばれるライセンスに従って寄稿、利用することが求められる。たとえば、利用者がウィキペディアの記事を転載した場合、転載したことを明記しなければならないだけでなく、転載した記事を含む利用者の著作物もGFDLの下で無償公開しなければならないとされている(改変して転載した場合も同様である)。つまり、もしも筆者が勤務先(大和総研)の業務においてSOAの解説を求められたら、自分で書いたはずのウィキペディアの記事とは違う文章をわざわざ再作文する必要があるかもしれないのである。今さら予想しても遅いのだが、これは相当にきつい作業であると予想される。

さて、あらためてウィキペディア日本語版の「SOA」を閲覧してみると、現在のところ大幅な修正は加えられていない。幸いにも、寄稿者同士による「編集合戦」の状態に陥ったり、不適切な記述を書き込む「荒らし」が現れたりといった事態には陥っていない(そのような場合、ウィキペディアでは記事の編集を一時停止する保護措置がとられる)。

ただし、昨年11月の時点では英語版の質を上回れたという自負があったのだが、英語版ではその後も増補、修正が繰り返され、どうやら再逆転されたようである。ウィキペディアにおいては、たとえ自らの作文に何らかの愛着があったとしても、未修正であることを喜んではいられない。修正はありがたいことなのである。この場を借りて、「増長」と「助長」の違いを指摘して校正してくださった方に(どなたかは存じないが)感謝申し上げる。感謝の気持ちでもっと心を満たしたい、今はそんな思いである。

ウィキペディア日本語版「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」

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