所得収支の受け取り手は?

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2006年06月12日

  • 取越 達哉

2005年度、日本国民が海外から受け取った証券投資・直接投資収益等、いわゆる所得収支の受取は、実に17兆円に達した。一般的に、「所得収支の受取は直接投資収益の受取が大半」というイメージが強いように思われるが、実際には証券投資収益(とりわけ債券利子)のウェイトが大きく11兆円、次いで直接投資収益4兆円、その他1兆円となる。一方、同年度の海外への支払は4兆円にとどまったため、所得収支は13兆円の黒字、GDPの2.5%となった。

ただし、ここまで巨大化した所得収支ではあるが、GDPには反映されない。すなわち、家計が保有している米国債からの利子収入や日本企業の海外現法の収益がいくら増えても、日本のGDPと直接的な関係はないのである。極端に言えば、GDPは増加しなくても、日本国民が豊かになっている、といった状況がありうることになる。それに対して所得収支は、GNI(かつてのGNP)には含まれることから最近は、「GDPだけでなくGNIにも着目すべき」という気運が盛り上がりつつある。

17兆円に上る海外からの証券投資・直接投資収益等は、一体誰が受け取っているのだろうか。詳細は明らかでないが、試算によれば、証券投資収益については、生保、年金基金、投信(ひいては高齢者を中心とする家計)、非金融法人企業、中央政府(外貨準備分)、社会保障基金に、直接投資収益については、製造業では、輸送機械、化学、非製造業では、卸売業、鉱業に集中しており、今のところ、日本国民が幅広くメリットを受けるには至っていないとみられる。ただし、所得収支の受取(そして黒字)は今後更に増加していく公算が高いため、その増加ペースや受け取り手の広がりには、GDPとは別に注目していく必要がある。

所得収支の受取にとって、一つのリスクは円高である。ただし、証券投資・直接投資の米国一極集中が緩和されつつあることもあって、所得収支の受取と円ドルレートの関係は弱まっている。円の全面高といった事態にならない限り、ダウンサイドリスクは限定的である。

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