買取機構・日銀・預保の売却による株式の再流動化

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2005年12月27日

  • 壁谷 洋和

2006年の株式需給を展望したとき、一つのポイントと位置づけられるのは、「持ち合い株式の再流動化」である。“持ち合い解消は過去のもの”との認識が、一般的となりつつあるが、実際は必ずしもそうではない。株価低迷期に持ち合い解消の受け皿として株式を買い取った組織が、近い将来に持ち株の処分を開始することが見込まれるからだ。その時期は、2006年中となる可能性が高く、2006年株式需給のリスクファクターとして捉えておくべき問題である。以下では、持ち合い株式買い取りのこれまでの経緯と、今後の処分についてまとめた。

銀行による持ち合い解消売りがピークを迎えていた2002年当時、株式需給悪化を回避する目的で導入されたスキームには次の2つが存在する。1つは銀行等保有株式取得機構(以下、買取機構)で、2兆円を上限に2002年2月から買い取り業務をスタートさせた。もう1つは日銀による株式の買い取りで、こちらは2002年11月から買い取りを始めた。やはり最大で2兆円(のちに3兆円に増額)を条件に買い取りが行われたが、総額で約2兆円を買い取ったところで、2004年9月末にその役目を終えた。

買取機構に対する売却は当初、銀行側に拠出金の納付が求められたこともあり、なかなか実績が積み上がらなかったが、2003年9月に拠出金を撤廃して以降は、急速に利用が進んだ。2005年10月末時点での買い取り額は約1兆6千億円にまで達している。一方、日銀による買い取りスキームは当初から活発に利用され、開始から1年で買い取り実績が2兆円近くに達したという経緯がある。

さらに、旧長銀と旧日債銀が一時国有化されたときに預金保険機構に譲渡された株式も再流動化の対象となる。預保がそれらの銀行から株式を譲渡されたのは2000年で、譲渡金額は簿価ベースでおよそ3兆円に達した。2000年から5年間は新生銀行、あおぞら銀行に優先買戻し権が与えられ、実質的に株式の処分が凍結されていた。一部は自社株買いなどに対応する形でガス抜きが進んでいるものの、大半はまだ両行の管理下に置かれている。しかし、新生銀行(旧長銀)分に関しては2006年3月、あおぞら銀行(旧日債銀)分に関しては、2006年9月に完全に預保に移管され、その後の処分は預保に委ねられることになる。

それぞれの組織は保有株式を処分するタイミングについて、一定の方針を打ち出している。買取機構は処分開始を買い取り業務終了後としており、仮に第9回(2005/11/1~2006/4/28)が最後の買い取りとなった場合、2006年5月以降は、売却のフェーズに入る(必ずしも2006年9月末までの保有は保証されていない)。日銀に関しては、処分開始が2007年10月以降と定められており、2006年度中の供給要因とはならないが、2007年度以降の供給要因となることは間違いない。新生・あおぞら銀行分については、上述のとおり、それぞれの期限をもって預保に移管された後は、いつ売却が始まってもおかしくない。

簿価ベースで6兆円近くに及ぶ(時価ベースではさらに大きい)供給圧力は、今後の株式需給を考える上では、決して無視できない問題である。いずれの組織も売却期限に比較的余裕を持たせている印象を受けるが、“相場環境の良いときになるべく短期間で決着させたい”との心理が働くことも否定できない。買取機構・日銀・預保の売却方針には十分な注意を払いたい。また、処分対象の銘柄についても、株式流動化後の株主構成がどのような姿に変化するのか注目される。「持ち合い再強化」の流れは今後の株式市場で大きな議論を呼ぶと予想され、株価形成に与える影響を見極める必要性が高まるであろう。

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