地方債 の“協議制移行”にまつわる関係者の悩み

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2005年08月22日

  • 経済調査部 市川 拓也

平成18年度から、地方債は許可制から事前協議制へ移行される。従来、自治体が起債を行う際には総務大臣・知事の許可を必要としていたが、事前協議を行うだけで基本的には自由に起債できるようになる。このため、過去数年にわたって関係者からは高い関心を集めてきたが、移行直前の現在、自治体・市場の双方からやや困惑気味の様子がみてとれる。

この協議制移行を謳ったの地方分権一括法(平成11年7月8日可決)を改めてみると、地方財政法の改正箇所の“地方債の協議等”(第5条の3)に、自治大臣(現総務大臣)・知事との協議で同意を得た場合、公的資金を充てることや交付税措置を受けることが可能であるという主旨の内容となっており、続く“地方債についての関与の特例”(第5条の4)で財政的な問題を抱えるとみなされる自治体へは国の関与が続くことが示されている。したがって、この特例によらないところのみ同意債、不同意債かの自由が与えられるしくみとなっている。

したがって、マクロの財源確保と財政再建団体制度を含め、従来どおり、大枠において地方債の信用力が保たれるかたちになっており、この点は投資家側も理解しやすいところであろう。ただし、さらなる理解を得るためには詳細に関しての情報が必要となる。(1)同意の基準、(2)同意債と不同意債の区別、(3)不同意資金の充当先(同意の起債充当率超過分?、枠外債?)、など一般にはわかりにくいことも残されているのである。さらに、地方分権の脈絡で基本的に起債が自由化されるなら国は既存のしくみをどこまで担保する気があるのかということにまで踏み込めば、政治的色彩が強いこともあり“大枠の理解”を超える部分にまで到達してしまう。

さらにわかりにくくしているのが9月11日に予定されている衆議院総選挙である。掛け声ばかりが大きかった“地方分権”に、より明確な方向性が示されることとなったのは小泉政権誕生以降であり、進捗のスピードは別としても同政権の強い意向があったからこそ、三位一体の改革というかたちで地方の自立が現実味をともなって議論されてきたという側面は否定できない。従来なら翌年度の地方債計画案が出されようというこの時期にあって、新たな地方債制度のイメージが描きにくいのは、選挙の影響が小さくないといえる。一刻も早い情報提供が新制度移行をスムーズに行うための最善策であると考えられるが、選挙という特殊要因が加わったことで、もうしばらくは自治体も投資家も悩ましい日々が続くものとみられる。

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