「マエストロの就活」

2005年6月17日

通常、マエストロと言えば音楽など芸術の世界における大家、巨匠(例えば、指揮者)に使われることが多い。現在、世界の金融市場におけるマエストロは誰かと尋ねられれば、大方の関係者は、米国の中央銀行FRBのトップを務めるグリーンスパン議長の名前を挙げるに違いない。1987年8月に就任してから約18年、2度のリセッションを克服し、10年という過去最長の景気拡大を操ってきた手腕に対しては、市場の信任も厚いとされる。先日、30数年ぶりに情報源が明らかになったウォーターゲート事件を取材したウッドワード氏が、"MAESTRO"というタイトルでグリーンスパン議長に関する本を2000年に執筆していることも影響しているかもしれない。

さて、そのマエストロ、グリーンスパン議長が5月半ば、ある大学の学位授与式のあいさつで、"間もなくFRBでの任期が終われば、私も職を探すことになるだろう"と述べた。メディアは退任表明と取り上げたが、来年1月末でFRB理事の任期が切れることは周知の事実であり、別にXデーが目前に迫ったわけではない。ポイントは後任が誰かであり、この話題自体何度も取り上げられて新鮮味はないが、フェルドシュタイン・ハーバード大教授、ハバード・コロンビア大教授、バーナンキ次期CEA委員長等の名前が挙がっている。また、後任探しのために、ブッシュ政権が退任時期の延期を検討という報道も出ている。一般的に、欧米の中銀総裁の在任期間は長く、グリーンスパン議長は13代目だが、同じ期間でイングランド銀行(英中銀)は11人、これに対して日本銀行は22人とほぼ倍である。1694年まで遡るイングランド銀行の場合、在任期間24年という上手がいる。

予定通り退任すると、グリーンスパン議長は80歳目前になるが、(仮に冗談だとしても)そこから"職を探す"という意欲に注目したい。インフレファイターとして名を馳せたボルカー前議長は60歳を目前にして退任した後、投資銀行の経営者や企業の社外取締役・顧問等を勤め、現在は、国連のイラク事業をめぐる疑惑を調べる独立調査委員会の委員長も務めている。ちなみに、ボルカー前議長はグリーンスパン議長よりも一歳ほど若い。

ただ、このような元気な老人は例外的な存在ではない。米国では高齢層の労働参加率(労働力人口/16歳以上人口)が上昇しており、特にここ4年間ではペースが加速している。反面、30歳未満の若年層の参加率は大きく落ち込んでいる。日本では、ニート(通学も仕事もしておらず職業訓練も受けていない若者)の増加が問題化しているが、米国でも、同じような傾向が指摘できるかもしれない。さらに、就業率(就業者/16歳以上人口)をみると、両者の格差は参加率よりも拡大している。これは、労働市場に流入してきた高齢層がうまく就職できた一方で、若年層は高齢層との競争に負けていることを意味する。

グリーンスパン議長が退任後も"働く"ということは、米国の労働市場の象徴であるといえよう。ともあれ、グリーンスパン議長がタイムラグを生じずに新しい仕事を見つければ、失業者にカウントされないし、失業保険を申請する必要もない。つまり、マエストロの就活は、雇用統計にはニュートラルである。

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