信頼性向上につながるリスク情報の開示

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2005年06月15日

  • 大村 岳雄
近年、有価証券報告書の虚偽報告や粉飾決算、試験データのねつ造など不祥事が続いていることから、企業の内部統制やリスク管理のあり方、コンプライアンスの強化が改めて検討されている。金融庁の企業会計審議会では、新たな部会として内部統制部会を設け、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価の基準および公認会計士等による検証の基準を本年夏をめどに策定するとしている(※1) 。東京証券取引所は「適時開示に関する宣誓書」の提出を義務付けただけでなく、会社情報の適時開示に係る社内体制の状況を別添で提出するよう義務化している(※2) 。また、経済産業省は本年2月に、企業の統合的なリスク管理についての基準作りを検討すべく「企業行動の開示・評価に関する研究会」を設置している。欧米企業のリスク管理手法の事例調査、内部統制を含む統合リスク管理の開示や評価の枠組みを産業界の代表者、学者、会計の専門家などを招いて検討し、6月に中間とりまとめを公表の予定である。リスク管理やコンプライアンスの情報開示という点では、既に2004年3月期の有価証券報告書から「事業等のリスク」「コーポレート・ガバナンスの状況」など定性情報の開示が義務化されている(※3) 。このように法定開示は整備されてきたが、これによらず積極的にリスクなどへの取り組みを開示する企業も出てきた。

積極的にリスク関連情報の開示を行う企業

企業の年次報告書で見ると、住友商事は、高度なリスク管理が総合商社業界の中での「差別化要因」であるとして、年次報告書の特集の1項目に同社のリスク管理を扱っている。特集では「リスク管理の目的と必要性」から始まり、「リスクマネジメントの組織・体制」「リスクごとの管理の仕組み」などを紹介している。東芝では、03年6月の委員会等設置会社移行に合わせたリスク・コンプライアンス体制の強化策として、CRO(※4) を定め、リスク・コンプライアンス委員会を設置している。また、社内カンパニーにもリスク・コンプライアンスの責任者を置き、カンパニーリスク・コンプライアンス委員会を設け、施策を決定し推進するとしている。東京ガスではグループ全体のリスク管理規則を制定。社長が委員長を務める経営倫理委員会で基本方針を示し、各部門がこれを実行。その実行状況も含め監査部がコンプライアンス監査を行うとしている。また、財務報告の中で「事業推進上の外部リスク要因」として、「ガス料金低下リスク」「気温変動リスク」「原料費変動リスク」などを挙げるとともに、その影響額も記載している。
このように、企業としてリスク管理やコンプライアンスへの取り組みを積極的に開示していくことが、企業の信頼性向上につながろう。

(※1)米国COSOフレームワークなど、諸外国の知見を参考に検討が行われている。COSOとは、70年~80年代に米国で多発した粉飾決算の原因究明と対策提言のために85年に設立された民間の独立組織(米国公認会計士協会、米国会計学会、内部監査人協会、全米会計人協会、財務担当経営者協会の5団体が中心)のこと。
(※2)東証のウェブサイト(http://www.tse.or.jp/rules/td/sensei/index.html)で、上場会社の宣誓書・確認書が閲覧可能である。
(※3)「事業等のリスク」では、各社の財政状態や経営成績、株価などに悪影響を及ぼす可能性のある事項が列挙され、「コーポレート・ガバナンスの状況」では、コンプライアンスやリスク管理体制の充実や強化が説明されている。EDINET(有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム(http://info.edinet-fsa.go.jp/)で上場企業の有価証券報告書の閲覧が可能である。
(※4)チーフ・リスク・コンプライアンス・マネジメント・オフィサーのこと。

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