「寄らば大樹」は永遠か

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2003年12月24日

  • 栗田 学
2003年9月中間期決算は,上場企業の経常利益が前年同期比30%以上の増加であるという。前年同期比でマイナスを記録したのは陸運,電力など極めて限られた業種しかない。また,全業種の売上高合計はたかだか1.7%増であるから,リストラをはじめとするコスト削減の寄与が大きかった可能性が高い。

この結果は,各企業の血の滲む努力の結果であろう。しかしながら,こうも短期間に業種を問わず企業の損益が改善するものか。大都市に比べ,地方の景気回復の遅れが指摘されている。大企業の多くが都市部に集中していることを考えると,中小企業の損益は相変わらず厳しいと予想される。この構図は,以前,情報化が進んだ場合を想定して描かれていた青写真とは異なる。

今後は企業規模など関係なく,発想力/創造力が勝負であり,これをビジネスに生かせる企業こそ21世紀を勝ち抜けるとの声があがった。情報化とは,個人の発想を活かし,新しいビジネスモデルを生むツールを取得することであり,そして業務プロセスその他の面において,情報化はまさに革命的な変化をもたらすと表現された。しかし,損益の観点から現状を見る限り,企業規模と競争力は正の相関を持ち,それは情報化革命をもってしてもひっくり返すことはできていない。情報化が革命だと言われて,いまひとつこれを実感できないのは,次々と新興企業が産業の勢力地図を大きく塗り変えたり,あるいはこれまでにない新しいビジネスが自由闊達に生まれたりしていないことが一因であるように思う。

情報システムは導入してすぐに効果が上がるものではない。自らの切り口で情報を分析してこそ新たな価値が生まれる。我が国において,情報システム導入の効果が,企業のアウトプットに関わる財務指標に明確に影響を及ぼしていることは,マクロの視点で見る限り確認できていない。これは,企業規模を問わず情報システムを使いこなせる人材が不足していることと無縁ではあるまい。その結果,今年度上半期は,体力的に勝る大企業がコスト削減を主因に業績を回復させたと解釈できる。

大企業の業績回復は決して悪いことではない。しかし,懸念すべきは冒頭に述べた結果を受け,21世紀を背負う人材が安定を求め,大企業に集中することである。ただでさえ,高失業率が続く現状は,安定を求める人材を生み出しやすい環境にあるといえる。安定を求めるという「寄らば大樹」的発想の人材には,どうしても危機感が生まれにくい。年功序列を廃し,成果主義型の賃金に改める企業は散見されるものの,根本にある意識の改革にまでつなげることは容易ではない。「中小企業の業績低迷⇒大企業への人材集中⇒危機感に乏しい人材の増幅」というスパイラルは避けなければならない。これを断ち切るには,情報化を企業価値につなげられる人材の育成が急務である。

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