国債管理政策の新たな展開???

RSS

2003年12月08日

  • 児玉 卓

国債管理政策を巡る動きが活発化している。11月下旬に財務省「公的債務管理政策に関する研究会」の報告書が発表され、それを受けた形で同省は12月3日、「国債管理政策の新たな展開」を発表した。言うまでもなく、議論の活発化には、公的債務の膨張という「時局」が大きく影響している。必要は発明の母でもあるから、それはそれで構わないのだが、昨今表明される方針等には納得し難い部分が少なからず見られる。

第一に、国債管理政策には、国債市場の管理統制型から市場化へという大きな潮流が存在していたのだが、近年、それへの逆行とも見られる動きが目に付くことである。一つは、国債市場における日銀のプレゼンスの急速な拡大であり、もう一つは、非市場性国債の位置付けである。後者の議論が、様々な買い手のニーズへの適合を目指した国債の種類の多様化という位置付けの中でなされるのであれば問題ない。しかし現実には、既に膨大な国債を保有している公的年金、更には郵貯・簡保を如何に国債に縛り付けておくかという観点から離れずにいる。考えてみれば、現在までのところ国債の大量発行を大過なくこなすことが可能であるのは、市場メカニズムに則った金利形成が比較的スムーズに行われるようになったという底流あってのことだろう。国債保有の(一段の)偏在や(やはり一段の)公的部門への依存は国債市場のインフラにとって、中長期的にはマイナスとなる恐れがある。国債の安定消化への危惧が市場化の流れを逆転させるといった事態は避ける必要があろう。

第二に、個人向け国債に関して、固定利付き債の発行など、商品性の多様化が進む見通しであるが、その前に必要なのは、変動金利や固定金利の意味を広く宣伝することだと考えられる。既発の変動利付き債の売れ行きが初回の表面利率に著しく依存していることは、変動性に対する理解が進んでいないことの証左であろう。こうした中で、固定利付き債を発行したところで、その売れ行きが表面利率に依存するのは無論のこと、好不調は変動債とパラレルに動くことになり、安定消化につながらないのは明らかなのではないか。

第三。「国債管理政策の新たな展開」では再来年度から「スワップ取引の活用等により、金利変動リスク等の管理の観点から残存年限の調整等を図る」とされているが、これは国債市場の参加者の裾野に欠ける中では、あまり意味のある方針とは思われない。例えば市場で短期債や変動利付き債への需要が高まる際には、創設が予定されているプライマリーディーラー(PD)との協議を通じて発行年限の調整が図られることになるのだろう。政府はスワップ市場を通じて発行年限の短期化を避けることが可能であるが、それが大きなコストを伴うことなく可能であるためには、PDの意見に集約されることのない、幅広い指向を持った市場参加者が存在していなければならない。言い換えると、短期債等への需要が増加する局面では、市場(端的には民間金融機関)が金利リスクに敏感になっていると考えられようが、政府がスワップによって債務を長期化するのであれば、それが可能であったとしても、結局金利リスクは民間金融機関に引き受けられることになり、発行年限短期化の意味が薄れる。

発行年限や債券の種類を「多様化」することは、新たな買い手を発掘する上でも意味がある。しかし発行年限の調整がそもそも買い手の希望を反映して行われるのであれば、それに合わせて年限調整を相殺するようなオペレーションを行うことは、少なくとも買い手の裾野に欠ける状況の中では意味がない。

やはり当面のプライオリティは、一つには市場メカニズムを更に活かすという原則に則った流通市場の効率性強化、ひいてはそれを通じて発行市場におけるリスクを軽減することであり、第二に国債保有の偏在を是正すべく、新たな市場参加者を獲得することに置かれるべきであると考えられる。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。