株式持ち合い解消と銀行保有株ポートフォリオ

RSS

2003年11月28日

  • 伊藤 正晴

上場企業による株式の持ち合い比率(対市場全体)を推計したところ、直近の2002年度末時点で5.2%となり、10年前(15.4%)、5年前(12.8%)から大きく低下している。また、持ち合いの中心に位置する銀行も保有株式の削減を続けている。しかし、銀行保有株のリスクを推計すると、総資産の3%しかない株式が自己資本の2割から3割に相当するリスクを持っている。このことは、今後も保有株式の一層の削減が必要であることを示していよう。

戦後から1980年代まで、株式保有に対するリスク意識が欠如したままに銀行と事業会社は株式持ち合いを進めてきた。かつては、保有株式の含み益が経営のバッファーとして寄与していたが、いわゆるバブル崩壊後の長期の株価低迷により、保有株式は企業財務に負の影響を与えるものとなった。また、企業の経営目標が規模の拡大から効率性の向上へと変わり、保有株は経営の効率性を阻害する要因ともなってきている。特に、膨大な株式を保有する銀行においては、不良債権問題に加えて、保有株式のリスクが決算に多大な影響を与えた。先の金融システム不安を引き起こした要因の一つである。

株式持ち合いの分析には、企業の保有株を個別銘柄ベースで調べ、持ち合い関係を確認する必要がある。そこで、上場企業全体の保有株を2種類のデータⅠで調べ、持ち合い比率を推計したところ(表参照)、持ち合い比率は92年度の15.4%から直近の02年度には5.2%にまで低下した。特に、90年代終わりからの低下が著しい。また、銀行と事業会社等(銀行以外)のそれぞれについて見ると、いずれもこの10年間でほぼ同様の低下を示しており、銀行と事業会社との間での持ち合い解消が進展していることが分かる。

次に、銀行全体の保有株のリスクⅡを推計したところ、株式保有額:23.2兆円Ⅲに対して、確率5%で5.2兆円以上の、確率1%で7.3兆円以上の損失が発生する可能性のあることが分かった。これは、銀行全体の総資産(約750兆円)の3%程度を占めるに過ぎない株式が、自己資本(約25兆円)の2割ないし3割以上の損失を発生させる可能性があることを示している。自己資本が保有資産全体のリスクに対する備えであると考えると、銀行の株式保有はまだまだ過大であるといえよう。

資産を運用する際には、さまざまな資産を組み合わせた分散投資を行うことで、リスクとリターンを勘案した効率的ポートフォリオを作成する。ただその場合には、運用する資金や負債の特性をも考慮し、各資産に対する投資を決定する必要がある。銀行の場合、預金を中心とする負債の特性や、金融システムのインフラを担う存在であることを考えると、株式による資産運用には慎重である必要があろう。また、銀行による株式保有は、資産運用という観点よりも株式持ち合いを通じて企業との関係を深める観点から行われてきたことを考えると、今後も株式を保有し続けることには、より一層の検討が必要であろう。

銀行と事業会社との関係は変わりつつあり、今後も銀行と事業会社による株式持ち合いは解消に向かおう。他方で、解消時の受け皿として個人投資家に期待が寄せられている。そのためには、株式投資が個人投資家にとってより魅力的で、身近なものとなるよう市場関係者のさらなる努力が望まれる。

Ⅰ)有価証券報告書の附属明細表と、東洋経済新報社の大株主データを用いた。なお、保有株すべてのデータは開示されていないため、本稿の推計は保有株の一部(6割~7割程度)であることに注意が必要である。
Ⅱ)リスクを測定するための代表的な指標であるVaR(Value at Risk)を用いた。この指標は、ある確率(5%や1%がよく用いられる)の下での損失額を示す。
Ⅲ)銀行全体の株式保有額、総資産、自己資本は全国銀行協会の全国銀行財務諸表分析(平成14年度決算)の数値を用いた。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。